リレーコラムについて

空白の18ヶ月

尾形真理子

i Podに入ったデータを見ると、
2009年11月23日と記されている。
これはわたしが最後にジョギングした日付ということだ・・・。
その後は、「寒くなってきたから」「花粉がひどいから」「暑いから」
などと理由をみつけては、ずいぶん長いことサボっていたのだ。
世の中におとずれた「ジョガーブーム」に乗っかって、
数年前にはじめたジョギング。
走りながら飛ぶとか、走りながら投げる、とかになると、
途端に苦手になるのだが、単純に走るだけというのはキライではなかった。
それなのに、この1年半でした運動なんて駅の階段をのぼるくらいだ。
タンスの中に放置されているジョギンググッズを目にするたびに、
心がチクリとするのがストレスだった。

「走ろうじゃないか」
今夜になって突然思い立ち、久しぶりにジョギングシューズを履いた。
以前と同じように10km走のプログラムを無謀にも設定した。
「1年半まったく走らず、一体どれだけ走れるのか」
3週間サボると、体は完全にもとに戻ると聞いたことがある。
確実に加齢もしている。辛かったらやめよう。
夜の街を東に向かってちんたら走りはじめた。
i Podはジョギングでしか使っていなかったため、
流れてくるちょい古の音楽を苦笑いで聞きながら。

2kmをこえたとき、意外に走れるものだなと驚いた。
4kmをこえたとき、そういや自分はこんな走り方だったと思い出した。
腕の振り方、足の出し方、呼吸の取り方。
7kmを過ぎたところで、もうやめたいと思った。
そう言えば、わたしはいつも7km地点でくじけるタイプだった。
自分でも、まさかと思った10kmを走り終えると、
タイムを見て、さらにびっくりすることがあった。
2009年11月23日のタイムと、まったく一緒だったのだ。
たいして速いわけでも、とりわけ遅いわけでもない、かなり微妙なタイム。

この事実をどう受け取ればいいのか、頭が混乱した。
この1年半という時間は、なんなのだ・・・。
たまたま体調が良かったとか、久しぶりでやる気があったとか、
そんなラッキーもあるような気がする。
でもそれ以上に、「体が覚えている」という感覚があった。
すっかり忘れていた自分のペースを、体だけが覚えていた感じ。
きっと明日になると、今までに経験したことのない
筋肉痛とか、膝の痛みとか、あるかもしれない。
どうしたって18ヶ月のブランクはあったわけで、
無鉄砲なジョギングの代償は、どこかに出ているはずなのだ。
それでも、体が覚えていたということが、
なんだか新鮮な体験だった。
自分の頭や心より、よっぽど信用できるなと思った。

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