リレーコラムについて

スペインの少女。2

土井徳秋

スペインの風車の村にある小さなバーのトイレの中に
僕は閉じ込められていた。
厚い木のドアは、どういう仕掛けになっているのか、
暗くて、まるでわからない。
ともかく入るときには何の苦もなく入ったのだ。僕は木のドアの上に
よじのぼってみることにした。
上の方には小さな空間が外に向かって開いている。
僕はそこから首だけ外に向かって出すことができた。店の方では、
ものすごい音量で音楽が鳴り響いている。ともかく叫ぶことにした。
とっさに出てきた言葉は、ヘルプ・ミーでも助けてくれでもなく
「アワワワワーッアッ」という情けない言葉だった。しかしその叫びも
音楽にかき消されてしまう。

その時だった。ひとりのスペインの少女がトイレの前に
よちよちと歩いてきた。三歳くらいだろうか。
その少女のところだけスポットライトがあたるように
ひとすじの細い光がさしこんでいた。
少女は、トイレの上から顔を出して叫んでいる見知らぬ東洋人を、
不思議そうに、不思議そうに、見つめていた。
まるで映画のワンシーンのようだった。
そして少女は、ひと言も発することなく、その場を立ち去って行った。

少女が立ち去ると、魔法のようにドアは開いた。
何故なのか。それは、まったくわからない。
僕はトイレからやっと解放されて、何食わぬ顔で、
まだ撮影中のロケ隊に合流することになる。
もう20年近く前になるのだろうか。
それにしても、あのスペインの少女の記憶の中で、
僕の姿はどのような意味を持ったのだろうか、と今も思う。

NO
年月日
名前
6153 2026.08.10 阿部祐樹 15年ぶり3回目
6153 2026.08.07 関裕敏 別れても~好きな人~
6152 2026.08.06 関裕敏 もうこれ以上はダメよって君は急に~
6151 2026.08.05 関裕敏 死にたいくらいに憧れた~
6150 2026.08.04 関裕敏 そんなヒロシに騙され~
  • 年  月から   年  月まで