リレーコラムについて

インフルエンザとグレゴリオ聖歌

中山佐知子

「インフルエンザは卒業したわ。
私はもうインフルエンザに罹らないわ。」
などと心中で罰当たりなことを考えていた私は
去年の暮れから正月にかけて
強烈なインフルエンザのアタックを受けました。
高熱、筋肉痛、喉の痛み、鼻水、咳。
もっとも苦しかったのが咳でした。

昔の仕事仲間のHくんから喘息の話を聞いたことがあります。
子供の頃から喘息だったHくんは、
ひと晩中咳き込んで苦しくて眠れない夜があったそうです。
「頭から毛布をかぶってずうっと起きていました」
その話を聞いて、はじめて私は喘息の恐ろしさを知ったのですが、
この話にはオチがあります。
Hくんは言いました。
「大学に受かって東京でひとり暮らしするようになったら治りました」
えっ、それってもしや????
「はい、原因はハウスダストやったんですわ」

咳は空気を排出する運動です。
肺や気道に空気がないと排出もできないので息を吸いたい。
できれば大きく息を吸って大きな咳をして決着をつけたい。
ところが咳が邪魔をして思うように息が吸えません。
大きな咳と浅い呼吸の連続になります。
これはなかなか苦しいです。息が詰まりそうで横にもなれません。
そうか、Hくんはそれでひと晩中起きていたのか。

こんな日が数日続いたある日の夜中過ぎ、
寝室に持ち込んだノートパソコンからグレゴリオ聖歌が流れてきました。
詩はラテン語なのでさっぱりわからない。
ラテン語じゃなくてもわからないけど、なんだかきれいだな。
しばらく聞き入っていると、あれっ?これは何拍子?
どうやら楽譜の区切りである小節がないようでした。
小節がないから三拍子とか四拍子のリズムもない。
楽器の伴奏もない。
ただそこには歌があるだけでした。

気がつくと朝になっていました。
ひと晩、私は安らかに眠りました。
目が覚めてから思ったのです。
ああ、わかったぞ。こんど咳の発作に襲われたら、
私は落ち着いて呼吸をしよう。
もし息が詰まるようなことがあったとしたら、
それは焦りと恐怖が原因だ。焦ってはいけない。
怖がってもいけない。とにかく落ち着いていることだ。

私は宗教もスピリチュアルもパワースポットも信じていませんが、
人が森や野原から役に立つ植物を見つけて薬草にしたように、
自分たちを助けてくれる音や色や形を見つけたという話なら
なるほどと思います。

グレゴリオ聖歌は9世紀から10世紀、
日本の声明は7、8世紀頃から広まったでしょうか。
楽譜という規律に縛られず、
口伝によって守られ伝えられてきた音は直撃力があるようです。

さて、いままで読んでくださってありがとうございました。
インフルエンザは難儀な病気です。
もう二度と罹りたくない。

◼︎ 来週のリレーコラムは直川隆久さんにお願いしています。

NO
年月日
名前
6034 2026.01.23 中山佐知子 インフルエンザとグレゴリオ聖歌
6033 2026.01.22 中山佐知子 インフルエンザとムーミン
6032 2026.01.21 中山佐知子 インフルエンザと猫
6031 2026.01.20 中山佐知子 インフルエンザと蒟蒻
6030 2026.01.19 中山佐知子 インフルエンザとニシン
  • 年  月から   年  月まで