リレーコラムについて

Writing is Mining. |書くと、掘る。

矢﨑剛史

高校生のとき、地理の授業だったか世界史の授業だったか忘れてしまったけれど、「フォーティーナイナーズ」という単語をはじめて知った。
西部開拓時代の1848年にカリフォルニアで金が発見され、その翌年である49年に一攫千金を求めて、にわかに砂金掘りたちが大挙して押し寄せた。
いわゆるゴールドラッシュのはじまりだ。
その年号にちなんで、この山師連中のことを「49ers (49年者)」と呼んだのだ、という。
「年号を呼び名にするなんてなんだか粋だなぁ」と、妙に感心した記憶が残っている。

 

それからずいぶん経って、
岩崎俊一さんの『幸福を見つめるコピー』のあとがきで、
「コピーは、つくるものではなく、見つけるものだ」ということばに出会った。

そのあとがきで岩崎さんは、小川洋子さんの『博士の愛した数式』を引用しながら、コピーを「すでにこのように存在していたもの」として数学の「定理」になぞらえておられた。
この卓抜した比喩に私がこれ以上つけ加える言葉などあるわけがないのだが、
「見つけるもの」という表現からの連想に、いつからか脳内で、汗と砂にまみれながら露天鉱床で日々掘削作業に励む採掘労働者のイメージが結びついた(もちろん私に鉱夫として働いた経験はなく、父方の田舎の信州での砂金掘り体験がせいぜいであり、すべては教科書から得た古ぼけた知識からひろがった妄想にすぎないことを付記しておく)。

 

フォーティーナイナーズはなにせ30万人以上いたというから、いろいろな性格の人がいただろうが、それが生業であった以上は毎日採掘に勤しんでいただろう。
コピーも、それが生業である以上、仕事がある限りは毎日書くものだ。

長い経験やすぐれた勘をもとに鉱脈を探し当てる人もいれば、
ボーリングマシンのごとく計画的かつコレクティブに採掘を行うチームもあるだろう。
一方で、昨日今日ピッケルを持った人であっても鉱脈にさえあたれば黄金を掘り出せる可能性があるのが、ゴールドラッシュの「アメリカンドリーム」たる所以でもある(実際に一番経済的に利益をあげたのは、その需要を見込んで彼らの使う道具類や作業着であるデニムを販売した業者(後のLEVI’S)だったそうだ)。

また、日々掘り出した玉石混淆の砂礫のなかからは、きらりかがやくものを見逃さない鑑定眼も必要だろう。コピーライターにも、書き散らかしたことばの山から、コピーとなりうる提案に値することばを見出す選ぶ眼が求められる。

そうして見つけた砂金は融かし合わせ、原石は磨き、加工する。
すぐれたコピーもまた「切り口」といわれる状態から、一字一句・改行にいたるまで、こうでしかあり得なかったというところまで究極に練り上げられたかたちを与えられる。

 

こうしたプロセスを経て価値を高められ市場に流通するところまで、採掘物とコピーはどこかよく似ている。
しかし、私の思うもっとも本質的な類似は、コピーに対する所有の感覚…このコピーは「私がつくったもの」ではなく、あくまで「見つけてきたもの」だという、ことばとの距離感にある。

どんな黄金もそれが人の手でつくられたものではないように、
そのコピーがすくい上げ抉りとるどんな共感や真実も、
コピーライターひとりの持ちものではない。

 

うなづけるからには、そのコピーは、コピーライターひとりの思いではなく、うなづいた多くの人の思いでもあった。(岩崎俊一『幸福を見つめるコピー』)

 

良いコピーを書くコピーライターがきまってどこか謙虚で慎ましく見えるのは、
そのコピーを価値あるコピーたらしめているものは「多くの人のものであること」そのものにあり、自分一人に帰属し得ないものだと、きっと知っているからだ。

また、鉱物・鉱山を意味する英語「mine」と「私のもの」を意味するMeの所有格「mine」は、同じ綴りながらまったく語源が異なることも「語源マニア」として指摘したうえで筆を擱きたいと思う。皆様、ゆめゆめご注意を。

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ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

私からのバトンは、
上の空で地理だか世界史だかの授業を聞いていた頃…
どころか、中学1年生からの同級生で、
私の前職・猿人|ENJIN TOKYOでの同僚でもある、
東将光さんに受け取ってもらおうと思います。

それでは東くん、よろしくおねがいします!

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