リレーコラムについて

Margarine Number.

矢﨑剛史

ドリルのコピーライター、藤曲旦子さんからリレーコラムのバトンを受け取った。

 

私の名前は、矢﨑剛史という。

現在、資生堂クリエイティブという会社で、クリエイティブディレクター/コピーライターを担当している。

 

2023年にうまい棒の値上げ広告「なくなっちゃうほうが、悲しいから。」というコピーで新人賞をいただいた。

その年、私は第二子の誕生を間近に控え、懇親会などの同期の集まりにもあまり顔を出せなかったこともあって、リレーコラムのバトンは回って来なかった。

それからはや2年が経ち、このコラムのことをどこか対岸の火事(?)のように思っていたのだが…

先週藤曲さんが担当となり「ギュン!」と擬音が聞こえそうなくらいバトンが急速接近してきた。

「これはひょっとして…いや、でも…」なんて少しソワソワとしていたら、ほんとうに彼女が連絡をくれたのである(ありがとう!)。

打席というのは、十分な備えのないままに、急に回ってくるものだ。

 

この急速さ加減に、ふと「ケヴィン・ベーコン数」ということばを思い出した。

あらゆる俳優は共演者を最大「6人」まで辿れば、必ずやアメリカの俳優ケヴィン・ベーコン氏にまで辿り着くという、摩訶不思議な法則のことである。

世界じゅうに俳優が何人いるのかは知らないが、『日本タレント名鑑』にさえ約25,000人が登録されているという。

それが「6」でつながるというのだから、約900人超のTCC会員はもっと少ない数でつながるのかもしれない。

(そういえば2023年のTCC賞授賞式で司会を務められた福里真一さんは、TCCの会員数はほぼプロ野球選手の登録者数と同じ、と仰っていた)

 

世界は広いが、世間は狭い。

「この業界って狭いよね〜」と私たち広告人もよく口にする。

それを、ネットワーク理論では「クラスター性が高い」と表現するらしい。

あるノード(結節点)と隣り合うノード同士がたがいにリンクし合っている状態。

要は、“つながりの密度が濃い”場。

私とまーがりんが出会った通称「谷山クラス」も、そういった「濃い」空間だったことは間違いない。

 

そう、言い忘れていたが、私は藤曲さんのことを「まーがりん」と呼んでいる。

それは彼女が以前から呼ばれていた、苗字にひっかけたニックネームだ。

藤曲さんは私にとって「畏友」と呼ぶに相応しい、

抜きん出た資質(それは先日のコラムの通り、才能ということばでは言い表せない紆余曲折の経験も含んでいる)と凄まじい努力を合わせ持った人なのだが、

そんな彼女を「まーがりん」という、なんとも肩の力の抜けたかわいらしい響きで呼ぶギャップが私の気に入っている(そして普段の藤曲さんはまさにそう呼ぶのがしっくりくる柔らかさを持ってもいる)。

 

私は藤曲さんをはじめて「まーがりん」と呼んだ人を知らないが、そのネーミングセンスをとても好ましく思う。

その呼び方をすることで、その人が彼女をそう呼んだ親密さを、私も共有させてもらえる気がするからだ。

彼女というノードの先に広がるリンクは私の目にまでは届かないが、きっと良いつながりにちがいない。

そのリンクの別の端っこで「マーガリン数」のひとつになれたことは、僕にとってはちょっとした誇りなのである。

 

さて、なかなか興味の尽きない「ケヴィン・ベーコン数」だが、しっかりとオチまでついている。

実際のところ、ケヴィン・ベーコンよりも数学的に「中心性」の高い人物はまだまだ存在する、というのだ。

彼よりもキャリアが長く、様々なジャンルに出演して多くの共演者がいる俳優…

たとえば『吸血鬼ドラキュラ』のドラキュラ伯爵や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで白の魔法使いサルマンを演じたイギリスの俳優、クリストファー・リーなどがそれだという。

 

クリストファー・リーが名優であることは論を俟たないだろうが…どうだろう。

やっぱりケヴィン・ベーコンのほうが、この理論のタイトルにはふさわしいと思ってしまう。

日本に置き換えて「タモリ数」などと呼ぶ向きもあったようだが、

タレント数珠繋ぎの中心地であるタモリをしてこの用語にあてても「当然」としか思われず、どうもしっくりこない。

 

ベンザブロックのコピーよろしく「あなたのベーコンはどこから?」とでも聞きたくなる、人それぞれに異なるベーコン観(ちなみに私は『トレマーズ』と『激流』)。

『午後ロー』的な親しみやすさも漂わせつつ、最近ややご無沙汰な感じもある(実際には俳優業から音楽まで精力的に活動中)。

この絶妙な余白が、この理論の説得力と、ミームとしての乗っかりやすい魅力を醸し出しているのかもしれない。

 

さて、ではこのベーコンとマーガリンの間に共通点はあるだろうか?

どちらも愛すべき存在には違いないが…

と、ここまで書いたところで、なんだかこんがり焼いたトーストとコーヒーが恋しくなってきた。

答えはまた朝食の後にでも考えてみるとしよう。

NO
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