幸福といえばマドなんだ
道玄坂の歩道には道なりに花壇がたくさんあって
いろいろな植物が植えられています。
歩道と溶け込むような意匠で
長い年月そこにありつづけたがために
花壇があることすらあまり気づかれていないかもしれません。
電信柱が気にならないように。
私もなんとなく歩道に花が咲いているなくらいにしか思っていませんでした。
ある日、花壇にひまわりをみつけて、
道玄坂の景色が変わってみえるようになります。
なにげなく写真を撮ってみたところ、
道玄坂の灰褐色に仄暗く映えるひまわりに
人格のようなものを感じてしまったのです。
放射能の街に佇むひまわりも思い出しました。
するとほかの植物にも目がいくようになります。
一見地味でどこにでもありそうな花や葉も
表情があり日々変わることに気づくようになりました。
種類は意外に豊富で
パンジーのような見覚えのある花だけでなく、
鳥の産毛のような繊細な花が咲いていたり、
野生の豆みたいのが生えていたり、
街の花壇ひとつとっても多様なんだなあと。
スマホのカメラを寄せると、
小さな花や葉の造形がおもしろくみえます。
色もいろいろ、形もいろいろ。
ほんの少しカメラの角度を変えるだけで写真の構図は大きく変わり、
撮り始めるとそこそこ花壇に足を止めることになります。
朝から道端の花の写真を熱心に撮っている中年男性は
映えに取り憑かれているようで気持ち悪いことでしょうが
酔っ払いが倒れていても放っておかれる道玄坂ですから、
人の目は気にせずともなんとかなります。
ほぼ毎日、朝夕通る道なので
同じ植物でも異なる時間、異なる天気、異なる季節で、
ずいぶんちがった表情をしていることにも気づきました。
朝日を浴びて精気が溢れていたり、
日が暮れて排気ガスにやられていたり、
葉の水滴が等間隔に並んでいたり、
稀な雪をしっかり帽子にしていたり。
ささやかな変化が楽しく感じられるのでした。
すると、細かい造作物にも気づくようになります。
信号機の上の監視カメラ、
同じ人の手によるであろう連作のスプレーの落書き、
工事直前の手描きの横断歩道。
こうして書き連ねると地味ですが。
ある日、花壇に小さなガムテープが貼ってあって、
黒マジックで「撤去予定」と殴り書きされていることに気づきました。
よくみるとたくさんの花壇に。
おそらくいつか取り壊されて、
道玄坂は生まれ変わるのでしょう。
花なんか一晩で抜かれちゃうんだきっと。
花壇だって永遠じゃない。
存在は気づかれなくても街に彩りを与え、
存在に気づいている人には楽しさを届ける花壇です。
企画して整備してくれている方には感謝せねばいけません。
監視カメラは誰がみていて、
落書きをした人はどこに住んでいて、
手描きの横断歩道はいつの間に書かれたのか。
関わる人を想像するのも楽しいのでしょう。
広告にもありますね。
大きな声はだしていないけれど、
好きな人には気づかれていて、
密かな楽しみになっているものが。
最たるものは毎日新聞の天気図の横に1センチくらいの枠で
だされているマド予報/ドア予報でしょうか。
毎日新聞といえば仲畑さんが選者をされている毎日川柳のファンが
たくさんいらっしゃるのですが
この予報に気づいている幸運な読者さんも
たくさんいらっしゃることでしょう。
天気予報コーナーの横に
21mmかける14mmの小さな窓がひらいていて、
毎日だれかが一言つぶやいている。
今日のドア予報はこうです。
夜の散歩に出た犬は、
満月のボールで遊ぶ模様。
今日もだれかを幸せにしていることでしょう。
YKK APさんには感謝をせねばいけません。
バトンはこの広告で新人賞をとられた中里耕平さんに渡します。
同期ですから、あれから来年でびっくり20年。
予報は毎日掲載され続けてきたのでしょうか??
だとしたらギネス級のような‥恐ろしいですね。
中里くん、あとは何もかもをまかせます!
お読みいただいた方、5日間ありがとうございました。
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