リレーコラムについて

あのひとのこと①

坂本和加

あのひとのこと①

 

「一倉宏」

 

弟子から見た師匠の話。

きっとみなさん興味、あると思います。

若い方の参考になったら幸いです。

 

はじめて言うのですが。宣伝会議の受講生時代。

わたし、あまり一倉さんのことを知らなかったです。

 

24才で転職。コピーライターという肩書きをもらって、

ほぼ何も考えず目の前の仕事で手一杯だった数年間。

 

編集系の職場では「その不勉強さがいい」なんて

妙な褒め方をされ、業界不勉強のまま。

その後は数社を転々と。バブルで倒産、ヤクザ来た!な会社もあった。

 

その後「思っていたのとなんかちゃう」職場からようやく、

「そうそう、こういう仕事では?」という広告制作の職場になんとか移れて。

そこで、わたしはめちゃくちゃ困っていました。だって何も書けなくて!

 

ちょい古のTCC年鑑をひらけば、テレビで見た糸井さんが笑ってて、

新人賞というものをどうやらとらなくてはならないのか・・・と

気づきはじめた頃でした。

 

同期たちは「あわよくば一倉さんの事務所に!」と思っていたようで、

その闘争心に驚いた。もともと私は競争とか好きじゃなく。

もっとも、何も考えてなく。みんなの野望に気づきもせず。

のんきに転職の相談なんかをしていたので。

 

一倉さんの素晴らしいところは、

「リベラルさ」だと思います。

 

学校の成績やコピーのうまさでは測れないところで

ちゃんと、「個」と向き合ってくれる。

 

エラそうにもしません。

お母さまやおばあさまに、

たくさんのやさしさと愛をいっぱいもらって

育ってきたとわかるような懐の大きさ、寛大さがあります。

 

めったなことでは怒らない一倉さんで有名ですが、

ある日、打ち合わせの移動で東急の駐車場案内のおじさんに、

運転席から窓を開けて怒鳴ったことがあります。

怒ったのを見たのは、あれ一度だけです。

あんなにプンスカしていたのはなんでなのか、未だ謎です。

 

一倉さんのコピー作法は、たくさん書きません。

うなったり、しぶとく粘ったりもしません。

さらあっと。あら、もうできちゃった!みたいな書き方です。

 

あるとき、仕事終わりに食事をしようとなって

ビールがなかなか出てこないということがありました。

そのあと何日かして、「これどう?」と見せられたのは

ANA「いい空は青い」の新聞広告のコピーでした。

 

え、書いていいんだあの話!!!

え、書くんだあの話を!!!ここに!

 

しかもそれは、「赤坂かおたん」で起きた話・・・腰を抜かしました。

 

今となってはそれがとてもよくわかります。

コピーは、息を吸ったり吐いたりして書くものでもあるよね。

と言えば伝わるひといるよね。

 

コピーはアートディレクターに「なるはや」で渡す必要があります。

なので、私が見てもらうならもっと早く書かなくてはいけない。

「・・・早く書かないなら、書いちゃうよ」。

という感じだったと思います。そのくらい早くて、私が遅い。

 

とにかく忙しかった。一倉さんが入社時49才で私が30才。

 

50代と言えば、仕事でいちばんいい時期です。

「一流と呼ばれるコピーライターの仕事が見れるのか〜・・・」と

超生意気に、内定をいただいていた会社と天秤にかけて考えた記憶があります。

 

自分の胸ぐらをつかんでやりたい。生意気だけど正しい・・・!

 

とはいえ入ってみると、

「教えること、ないから」ときっぱりと宣言されました。

まあ一倉クラス時代もそうだったですが。

 

コピーはそういうものじゃないから。

横に座ってれば、そのうち上手くなるだろう。

そんなことを言われました。

 

ほんとうにデスクは横でしたので、

ふーん、そういうものなのか。と思い、さして前のめりになることもなく

たまに、「書いてみて」と言われるまではなるべく

仕事の邪魔をしないようにしていました。

 

私がお世話になった13年間は、プランナーの時代と言われたりもして。

コピーの上手なプランナーさんと仕事をすることも多かった。

 

一倉さんは、キャンペーンスローガンを頼まれることが多かったです。

今は大分減りましたが。「きれおね」みたいな仕事と言えば、伝わりますよね。

 

まさに、ザ・鉛筆一本の仕事。

 

「おおきな、器、受け皿になるような言葉」。

太くて、強い、表現やキャッチフレーズを自由にする集約型の言葉です。

 

これは「点=木」を見ていたら書けません。

森どころか、ユーラシア大陸あたりまで

眺めないと書けないような、本質的な言葉です。

 

その後、私は企業スローガンやネーミングに特化していきました。

 

さて。

 

唐突ですが、私と一倉さんの関係は

とある占い的には、「納音(なっちん)」というのだそうです。

 

音が納まる。広がりではなく、完結するようなイメージです。

「対」なのですが真逆の性質の関係性です。

なので、発展よりも、持続・継続。

アクセルとブレーキのような。月と太陽のような。

この真逆な性質の関係性が続いていくには、

師匠と弟子のように

主従がしっかりしていること。

とそれには書いてありました。

 

若いとき、「このひとと、ながーく付き合うことになるよ」と言われました。

岡山の、なんかすごい占い師だったように記憶しています。

NO
年月日
名前
6025 2025.12.23 坂本和加 あのひとのこと①
6024 2025.12.20 一倉宏 誕生日とお正月は
6023 2025.12.19 一倉宏 コピー年鑑をよろしく
6022 2025.12.17 一倉宏 ジェンダーとコピー
6021 2025.12.16 一倉宏 AI vs. 開高健
  • 年  月から   年  月まで