リレーコラムについて

好奇心は鍬である 「音楽・ジャズ喫茶案内」

尾上永晃

前回はオーディオ沼の顛末について書きました。

今回は、自分の耳の好みを探るために巡った音楽喫茶などについてです。

もともとクラシックもジャズも聴かない人間でしたが、スピーカーが変わったり店を巡るうちに好きになってきてしまいました。音楽専門家でも無いので的確な表現じゃないものが多いかもですが、そこはご容赦ください。みなさまの体験のお手伝いになったら幸いです。

<音楽喫茶・バー>

喫茶ライオン (渋谷)

言わずと知れた名店。来年で100周年。渋谷のいかがわしいエリアのど真ん中にある石造の建物のドアをくぐると、そこは教会のような空間。中央には2階まで届くオリジナルスピーカーが置かれており、クラシックを流し続けている。スピーカーを囲むように席が同じ方向を向いて並んでいる。私は2階席の中央が好きです。クラシックは正直あまり興味がなかったのですが、ここに来てから結構ロックな音楽なのではないかと思うように。なんせ迫力がある。客は意外と若い人がちらほら居る。私語は禁止だけど、怖くないです。

バロック(吉祥寺)

牧師の講壇のような風貌のヴァイタヴォックスの音を聴いてみたくて行ったら、タンノイの方でバッハを流していた。喫茶ライオン同様に全員がスピーカーの方を向くお店。着座して30分たつまで注文を聞きにこないのは、音楽に浸って欲しいからとのこと。ヴァイタヴォックス聴けますようにと願っていたらチャイコフスキーをリクエストした方がいて鳴った時の感動たるや。木の箱である特徴を活かしに活かしたぐわんという響きがド迫力。一時間で出たら、あらもう帰るんですかと言われた。もっと居たかった。

名曲喫茶ミニヨン(荻窪)

タンノイが控えめな音量で鳴っている喫茶店。タンノイといえばクラシックと言われるようで、名曲喫茶はタンノイが置かれている印象が強い。ライオンやバロックのような緊張感はなく、やさしい雰囲気にクラシックが合っていて居心地が良い。ギャラリーも貸し出している。

名曲喫茶ヴィオロン(阿佐ヶ谷)

マスターがスピーカーを作っている店。ウィーン楽友教会のホールを手本にしたらしく小さめのライオンといった雰囲気。常連が目をとじて曲を聴いている。スピーカーからは何個もラッパみたいなホーンが飛び出ていて、音が良い意味で荒々しくてクラシックのロック性をもっとも感じるお店だった。余談だが、コーヒーが苦手で酸っぱめのしか飲めなかったのが喫茶めぐりによってヴィオロンで出されるようなしっかり苦いのを好きになってきた。

しばし(京都)

平安神宮の近くの古民家が音楽喫茶になっている珍しい形式のお店。スピーカーはタンノイモニターゴールドを積んだLOCKWOODで、アンプは謎。和室にちゃぶ台が置かれており、縁側にスピーカーがあって奥の庭の緑が空間全体を彩っている。かかっている曲は、音響派のものでこれまた珍しいが不思議と和室に合う。同行した後輩がトータスのギタリストのソロをリクエストして、これまた良かった。レコードも売っていて、BURIALの1stを購入していたら今度はジャズがかかり始めて空気が変容するのも面白かった。AMBIENT KYOTOというイベントも主催しているようです。

名曲喫茶 柳月堂 (京都)

出町柳駅の近く、70年の歴史を持つ名曲喫茶。雑談ルームとリスニングルームでドアが分かれており、リスニングルームに入る前には「上着を脱ぐならここで」といった注文がいろいろある。斜め屋根の大空間の奥にホーンが乗った巨大スピーカーとピアノが鎮座しており、そちらに向いてソファが並んでいる。名曲喫茶は暗めなところが多い中で、陽光が差し込む明るい空間でソファに座ってホールみたいな響きのクラシックを聴いてると整いそうになる。一緒に行った後輩はなぜか瞑想のポーズをとっていた。

LISTEN (石川町)

オーディオに興味を持つようになったきっかけの店。野毛から歩いて十分そこらのビルの2階にある。ハーベスというイギリスのスピーカーが壁面にくっついており、温かみのある音が響いている。最初に行った時は、客が僕と知人しかおらずで曲をリクエストし放題で楽しすぎて電車を逃した。ジェイムス・ブレイクはもちろん、ジェイコブ・コリアーやトム・ミッシュなども最高の響き。澄んでいて深みがあるという相反するような音の印象をうけた。

 

<ジャズ喫茶・バー>

Tonlist (下北沢)

オーディオの師匠のお店。タンノイから鳴るジャズの押し出しが強い。自分のスピーカーと比べるとなんでこんな迫力が出るんだろうと不思議に思うくらい。ダフトパンクのランダムアクセスメモリーズってこんないいアルバムだったのかと。ホットドッグとコーヒーも美味しいし、スズナリの入り口にあるという場所性もかっこいい。色んな店にいってはその報告をし続けており、迷惑がられていないか心配。

こだわりのジャズ喫茶 マシュマロ(野毛)

中華街のど真ん中にあるジャズ喫茶。子連れだったので入りづらいかなと思ったら、とても歓迎された。お店始まって以来最年少のお客さんだと、お菓子をもらったりなんかして、親父の趣味に付き合わされて苦虫顔だった子らもニッコリ。MAXSONICというスピーカーが鎮座する横には店主のお爺さんが座っていて目を閉じてジャズを聴いては、常連とジャズについて語っている。愛の溢れる良い店だった。

Yon (神保町)

インスタグラムでスピーカーばかり見てたらレコメンドで巨大ラッパみたいなスピーカーをたまに見るようになって、どんな音なんだと気になってたらYonにあった。新しい店で一階は洒落たカウンターバー。地下にラッパスピーカーがあり、iPadで好きなように曲を聴けるのが楽しい。客が私と友人だけになったときは、あれやこれやかけられて楽しかった。ラッパ型の音は高音が反響して感じられて少し苦手な音だったが、今いくとまた違う捉え方になるかも。

映画館 (白山)

もともと映画の上映もしていた老舗ジャズ喫茶。千駄木に長いこと住んでいて白山まであれこれ考えながら散歩していたというのに知らなかった。自作のスピーカーの出すピアノの音に驚いた。まるで打楽器のようなガンガン音。これはすごい。あとで家で聞いたら同じ曲と思えないくらいの変化だった。空間全体に映画とジャズ愛の歴史が刻まれている。店主が引退することになって、常連が組合を作って引き継いだらしく、まだレコード何がどこにあるか分からないんですよと微笑んでいた。

いーぐる (四谷)

ジャズ素人が口に出していいのかというくらいのジャズ喫茶の草分け的存在。四谷駅近くの地下に降りるとJBL4344MkⅡなる巨大スピーカーが壁に埋め込まれている。音楽喫茶はスピーカーに向き合うように席があるけどジャズ喫茶は自由なもので、正面の席がない。それゆえに絶妙に居心地がよくて、企画作業をするときに通うようになってしまった。企画は音楽喫茶よりジャズ喫茶の方が捗る気がしている。

Downbeat(野毛)

野毛の名店。騒がしいエリアの階段を上がっていくと壁が真っ黒な空間が現れる。スピーカーはアルテック。スピーカーに近い席に座ったがド迫力。アルテックの音はどこか暴力的でライブ感が強い印象がある。ラウンジリザーズのライブアルバムがかかっていて、これがまあかっこいいのなんの。家で聞いたら迫力が弱まった印象で、タンノイの澄んだ雰囲気は好きだけどちょっとだけアルテック的な迫力足したいなと思ったり。お客さんは話し合ってる人や、本を読む人、じっくり聴いてる人など居場所として愛されてる感がある。

直立猿人 (蒲田)

ジャズ喫茶の本を買ったら、何度も出てきた50年やられている店。ジャズのアルバム名を店名に冠している。あらあらしい壁面と暗さが洞窟の中を想起させる。音は控えめなんだけれど、迫力をそこなわずちょうどよく聴こえてくる。なんだかすごく企画が捗った。蒲田のバーボンストリートのどん詰まりにある位置も好き。

GINZA MUSIC BAR (銀座)

銀座のど真ん中にあるおしゃれなバー。ほぼ海外の人で埋まっている。カウンターに座ると目の前にタンノイ・ウェストミンスターなる巨大スピーカーがでんとあり、奥のDJがジャンルを問わず楽曲を鳴らしている。曲ががんがん切り替わっていくので、こういう曲が自分は好きだなとかスピーカーと相性いいなとか話せて楽しい。

CAVE SHIBUYA (渋谷)

渋谷の宮下公園近くにあるおしゃれなバーでGINZA MUSIC BARに近い印象だがこっちの方が広い。タンノイ・ウェストミンスターがこれまた大きな音を鳴らしていて、客層も若い。新たな形の音楽バーの姿をみせてくれている気がする。

グランドファーザーズ (渋谷)

宮下公園近くの地下にあるタバコの香りするバー。こちらもまた海外の人で埋まっている。店内の雰囲気は禁酒法時代のバーのような。注文の際にリクエスト票がもらえて、ハードルが低い。自分のリクエストがかかると嬉しい。

RECORD BAR analog (渋谷)

喫茶ライオンを超えた先にあるレコードバー。入店の際に一曲リクエストできるバッジをもらえる。アルテックA7がガンガン鳴っており、リクエストされた曲によって店内の雰囲気がガラッと変わるのが面白い。自分の席を離れてレコード棚で何をかけてもらおうかなと選んでる最中が楽しい。

KAFFE BAR NELLIE (大阪)

夜中に来訪した、うめきた公園と梅田スカイビルの間にある古い建物群にあるカフェ。開きっぱなしで音楽鳴らしてるのでビルが目に入ると同時に音も入ってくる。東京じゃこういうこと出来なさそう。アルテックのラグーナという1950年代のスピーカーでその年代のレコードをかけているので、その時代の空気が再現されているということになる。音楽が鳴り響く半屋外空間で真っ暗な梅田スカイビルを見てると夜に溶け込出しそうになってくる。

THE SMOKING LOUNGE by Ploom (イベント)

世界一の喫煙所をコンセプトとした体験イベント。の2階にSupremeのスピーカーなども作っているアメリカのOjasとノルウェーの「NNNN」の共同開発したスピーカーON2がやってきたというので。ものすごく大きいスピーカーからは、昭和歌謡が流れていてこの時代の曲ってこういう聞こえ方するのかと驚いた。

BISLEY COMBO(表参道)

HORA AUDIOという職人さんが滋賀で作ってる独特な形状のスピーカーが表参道の家具屋さんにあったので見に行ったら店長がかなりオーディオ好きな方で色々とお話を伺えて楽しかった。HORA AUDIOは小さい躯体なのに音が広く空間に鳴る印象で、デカスピーカーなんか置けるかい!って家にはとても合うんじゃないかと思った。

タワーレコード渋谷6F(渋谷)

レコード専門エリアをフラフラしてたら、なんと店内BGMをアルテックA5が鳴らしていた。アルテックは劇場用スピーカーだったというので、大空間もなんなくカバーしてる。しかしこんな野晒しで四方八方からじろじろ眺められるのはありがたい。

音楽喫茶GPTも作ったのでよかったら使ってみてください。
地名を入れるとおすすめの店が紹介されます。
https://chatgpt.com/g/g-686533adb904819193e7abe07e2de6df-yin-le-chi-cha-gpt

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