オリエン学入門
弊社のオリエンが良くないと思うんで、いいオリエンについて考えるワークショップをやってくれませんか?というメタなオリエンを森永乳業さんから数年前にもらいました。
(詳細はこちら:https://www.sendenkaigi.com/marketing/media/sendenkaigi/025583/)
考えてみると、オリエンとはなんなのか。
目的や課題や締め切りが記載された書類。受け手側の私たちは、オリエンを聖典のように読み込み解釈をして企画をしていきます。生まれた時からそこにあった、みたいな様式として。作り手側のクライアント視点の話を伺うと、オリエンは誰かに学ぶわけでもないし決まった型があるわけでなく、作るときにものすごく悩むとのこと。不思議じゃないですか?決まった型があるわけでないのに、自然と各所で作られて仕事の起点になる書類って。いいオリエン、よくないオリエンといった話も聞きます。でも、具体的になにがいいのか悪いのかも良く分からない。仕事の精度効率を上げるという視点にたったときに、働き方について議論はされども、その働きを生み出すオリエンについて議論されていないのもまた不思議だなと思いました。だって、船出すときに今いる港と目的地が正しいのかも分からず航行してたら、いくら航行中にがんばっても無駄ですよね?余談ですが、ADの相楽が「神が細部に宿るというけど、神が宿りたい社がまず先にないと意味ない細部にばっかこだわることになる」と言っていたのを思い出しました。
さて、本題です。まずは「どんなオリエンがあるのか」を類型化するために、社内外いろんな職種の人に話を伺いました。するとパターン化できることが分かってきました。たとえば、カンヌでのバーガーキングセッションでは、オリエンは一行だけと言っていましてこれは「超シンプル型」。今度はそのパターンを踏まえて、自分たちでワークショップ用にオリエンを書いてみました。これがまあ難しい。不安で全部入れたくなっちゃう(これを同期の村田は盛りエンと言っていました)。オリエンは作る段階で、企画が入っているんだなということに気づきました。みなさんも一度オリエンを書いてみるのオススメです。
いろんな人に「いいオリエン」と「わるいオリエン」についても聞いてみました。そこから見えてきた共通項とひとつの回答について書いていきます。
<いいオリエン>
・現状把握と目的が明確
・どこまでが与件かがわかりやすい
・柔軟に変更されうる風通しの良さがある
<わるいオリエン>
・自分で自分を褒めてる。嘘が入ってる
・盛り盛りすぎて読み解きに時間がかかる
・手法を規定している
といったあたりは共通していました。オリエンから解釈していくのも技だという意見もありまして、それも同意です。ここにおいては、受け手側の正直な気持ちとしての「いい」「わるい」についての言及となっています。
とある大CDのいいオリエンの定義は明確でした。
「ブランドの欲望が描かれてること。担当者の欲望ではない。あとは予算と期間」
また、とある大CDの判別法もわかりやすいです。
「早い話が、をつけてみる。」
「いいオリエンはそのまま企画になる。それをオリエント急行と呼んでいる。」
などなど。
ただ、いいオリエンでも爆発的に効果を出す仕事とそうでないものの差はありそうです。その差ってなんなんだろうと、大CD数名に伺うと、
・挑発的だったり視座が遠いところにあると燃える
・あなたに頼むって感じが出てると燃える
・正直に話し合える関係性だと燃える
といったあたりが出てきました。
これって、人間同士のお願いごととして大事なことだよなあと感じました。
あなたを信じるから話し合おう。っていう。私こんな素晴らしいんで聞いてください意見はうけつけませんって態度のやつっていやですし。他にも、記載しなかった部分で人によって違うなって項目も数個ありました。人的資本経営という考え方があります。ざっくり言うと、技術への投資でなく人への投資をして、モチベーションが上がることが良い結果をもたらすという考え方です。そりゃプロだしどの仕事も燃えていたいですが、熱量に差は出てしまうもの。オリエンで相手を燃えさせることが、結果的に良い結果をもたらすはずです。ひとつの方法として、オリエンを出す相手を固有の人としてみて、その人になぜお願いしたいのかを踏まえた手紙のようにオリエンを作ると、良い結果が出やすいのではないでしょうか。という話もありました。
後輩の徳光くんも同じような相談をクライアントから受けて明晰なオリエンのあり方分析資料を作っていたり、他業界でも「発注」について考える動きがあったりと、オリエンを作る側も受ける側も考える時代到来な予感がしています。なんて思ってたら、長州力がChatGPTに「俺に聞きたいことある?」と聞いていて、発注側がオープンな状態で受注側が質問をすることで作っていくオリエンなんて構造もあるのかもしれません。
そして、これはオリエンだけの話でなくてチームのアサインも同じなのではないでしょうか。
あなたにお願いしたい、という理由があった方がお願いされる方も気持ちいいですし、熱量も変わるはずです。技能的な話だけでなく、なんかノリがあうから、とか、あれ好きだったよね、とか。
思えば、日々我々はいろんなオリエンをして生きています。子供に宿題をやってもらうのも、不動産屋さんで物件を相談するのも。AIに何かを聞くことや考えてもらうプロンプトを書くこともオリエンです。プロンプトを書くたびに、自分はなんて適当なお願いをしていたんだと感じることも多く、AIに触れる人が増えるに従って、お願いごとが丁寧な優しい社会が到来するんじゃないかと期待したりもしています。
「ドラえも〜ん!成績が悪い状態が続くと、そういう目で見られるし、学習意欲も低下するから、なるべくシンプルかつ簡単に出来杉くんばりに成績が上がってチヤホヤされる状態を作るための道具を出してよ〜」みたいな。いや、そこまでいくとちょっとやだな。
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