リレーコラムについて

よいお年を

市川晴華

10歳の時、実家が蕎麦屋になり、
そこから、お店を手伝うようになりました。

蕎麦は配膳が難しい。
すぐ麺が伸びてしまうので、
「急いで」運ぶ必要がありますが、
お盆には繊細なものがたくさん乗っていて、
「慎重に」しなければなりません。

出汁が入った「そば徳利」は
逆円錐みたいな形なのでかなりグラグラします。
出汁を注ぐ「そば猪口」も地味に重い。
薬味皿やせいろも含めると、お盆の上に「いろんなサイズの皿がひしめき合っている」のです。
一番人気の「天せいろ蕎麦」は、それに加えて、天ぷらの皿が追加されます。「天ぷら」は吹けば飛んでしまいそうなぐらい軽いのに、皿はあんなに重い必要があるのか?と思っていました。

これを「急いで」お客さんに持っていく必要があるので、
小学生の私は幾度なくミスをし…
お客さんからも、親からもよく怒られていました。
嫌すぎて、パートのおばちゃんによく配膳をおしつけていました。

でも人はだんだんと上手くなります。
そのうち2個同時にも運べるようにもなりました。

そして得意げになり、
出汁をこぼしたりして、また怒られました。

「何事も調子に乗ってはいけない」は
そのころから自分の信条です。
(いまではご機嫌に運ぶことができます。)

そして、大晦日の「年越しそば」は、いまでも毎年手伝っています。じつは紅白を家で見たことがありません。

ありがたいことに、大晦日は行列ができ、
2〜3時間お待ちいただいています。
一番難しいのが「お客さんに快適に待っていただく」ことです。

最初は、店内の小さめの待合室や、外で並んでいただいたのですが
「もう待てない!」と怒って帰られるお客さんも多数いました。
(そりゃそうですよね…)

しかし、私が大学生の頃に
「スマホ」なるものができ、
そのおかげで、暇つぶしがしやすくなり、
待っていただけるようになりました。
「スマホって、神だな….」
毎年クレーム対応をしていた私はテクノロジーを崇めました。

そのあたりから、
さらに快適に過ごしてもらえるように私は
「秘策」を打ちました。
お車で来られる方には、車内で待ってもらうようにしたのです。
「順番が来ましたらお電話します」と。

すると、狭い待合室で待つより自分のスペースで待てるからと、格段にお客さんの満足度が上がったのを感じました。
よかった…。

しかし、パートのおばちゃんと
「方針の違い」が生じました。

「早く注文を聞きたいから、順番の3組前から店内にお呼びし(まだ席が空いてないけど)、待合に居て欲しい」派のおばちゃんと、
「待合は快適でないから、席が空くギリギリまで電話しない派」の私です。
長年バトルしてきました。
しかし、昨年、おばちゃんが辞めたため、今年から私の牙城となりました。
よし、と思ったのも束の間。
昨年は、電話してもなかなかすぐに来店されないお客さんが多発。
「注文、早く聞いてよ!」と普通に父に怒られました。

みなさん、お電話したらすぐに来店されるよう、どうかお願いします。

でも、
どんなにお待たせしてしまっても、
最後のお会計が終わった際に
「よいお年を!」というと、
全員が笑顔になります。
魔法の言葉です。
「よいお年を」。
無事に年を越せますようにと、相手を慮る言葉だからでしょうか。
もし、蕎麦屋を開業することがあり、大晦日に接客をすることになりましたら、ぜひご活用ください。

広告の仕事は、「準備」ができます。
どんなクライアントさんで、どんな商品で、というのを事前に知った状態で、資料を作って、プレゼン。
その後の制作も含めて、世に出るまでの
「準備」がメイン業務ともいえます。

しかし、「お店」は毎日が本番。
器のようなもので、すべてに開かれており、受け入れる必要がある。どんなお客さんがくるか、どんな注文が入るか、どれだけの人数がくるか、予期できない。こわさもあります。

ただ、「使う言葉や対応で、お客さんの印象が変わる」というのは、同じだなぁと思います。

蕎麦屋では、準備のないむき出しの人間として、
世の中に向き合う。

これも悪くないなと思えるようになりました。
紅白は観たいですが…。

市川晴華の過去のコラム一覧

6085 2026.04.16
6084 2026.04.15 歩く
6083 2026.04.14 よいお年を
6082 2026.04.13 キッカケ
NO
年月日
名前
6085 2026.04.16 市川晴華
6084 2026.04.15 市川晴華 歩く
6083 2026.04.14 市川晴華 よいお年を
6082 2026.04.13 市川晴華 キッカケ
6081 2026.04.10 松村紘世 納豆と牛乳と卵
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