リレーコラムについて

おいでよ!狂物の町

田中賢一郎

僕は、上野と浅草の
ちょうど間くらいに住んでいるのですが、
最近はいわゆるインバウンドの影響で、
台東区は、ものすごい数の海外からのお客様で溢れかえっています。

 

どのくらいすごいかというと、
飲食店の入り口に貼られているメニュー表は
だいたい英語や中国語の表記の方が大きくて、
日本語は小さく添える程度。

雷門通りのガストの入り口には
鰻重とあんみつの写真が大きくレイアウトされて貼られており、
「ガスト、お前…!そんな店じゃないだろ…!」
ちょっと複雑な気持ちになったりもします。

 

そんな街なので、
夜、普通にお散歩をしているだけでも、

Airbnbの鍵を無くして困っている台湾人一家を交番へ案内したり、

ベロベロに酔っ払った迷子のイタリア人カップルをホテルまで送ったら
1000円もチップを頂いてしまったり、

さまざまな人々との楽しい事件に
月1くらいで巻き込まれる日々なのですが、

 

その中でもダントツで厄介なのは、
やはり日本人のおじさんだな、と思う事件がこの前ありました。

 

「兄ちゃん、学生さん?」

 

上野駅前でふと後ろを振り返ると、
パジャマのような格好で自転車をひいているおじさんが
話しかけてきていました。

 

「いや、こう見えて社会人でして!もう27になります…えへへ」

「突然ごめんな。ちょっとだけ話、聞いてくれへんか?」

 

そういって、おじさんは寂しそうに身の上話をはじめました。

おじさんはこのあたりの出身で、
いまは岡山で働いているそうなのですが、
この前、お母さんが亡くなってしまい、
こっちに帰ってきたのだと言いました。

 

「お悔やみ申し上げます…」

「それで、ようやく葬儀とかも済んだから、
いまから岡山に戻りたいんやけど、
お恥ずかしい話、ついこの前、仕事をクビになってもうてな」

 

嫌な予感がします。

 

「新幹線代、3万、貸してくれませんか?」

おじさんはかなり話が下手くそで、
この時点ですでに5分近く経っており、
聞かなきゃよかった〜!と、ものすごく後悔しました。

 

「いや、さすがに3万円はちょっと…」

「頼む!絶対返すから!!!」

かなり大きく出てるのに、一向に引かないおじさん。

なにか断る理由はないかと、
とりあえずスマートEXアプリで新幹線の運賃を検索してみると、

 

『 東京→岡山 17,770円 』

 

あれ…?2万円で足りるじゃん…と思っていたら、
よく見ると、

 

『 グリーン車 23,840円 』

 

…こいつ、まさか、グリーン車で行こうとしてる?
広い座席でゆったり移動時間を楽しみながら、
高級駅弁とビールで一杯やろうとしてる?

その衝撃ですこし冷静になると、
このおじさん、さっきから、ものすごく矛盾してるのです。

3万円という大金を借りたいのに、「学生さん」みたいな見た目の奴に話しかけてきてるし、
パジャマ姿で自転車押していて、どう見てもいまから新幹線乗らないし、
そもそも上野は東海道新幹線止まらないから岡山行けないし、

 

詐欺のくせに、あまりにも詰めが甘すぎる。

 

だんだん腹が立ってきたので、
「あの、やるならやるで、もうちょっと上手くやってください」
と言って、その場を立ち去りました。

 

迷えるインバウンドと、詰めの甘い詐欺おじが入り乱れる街・上野。
みなさんもぜひ、遊びに来てくださいね!

NO
年月日
名前
5989 2025.11.03 原田真由 コミュニケーションの街
5988 2025.11.03 田中賢一郎 インフルエンサーになりたーい!
5987 2025.11.03 田中賢一郎 最近ハマってるYouTubeです。
5986 2025.11.03 田中賢一郎 ふつうのひと
5985 2025.11.03 田中賢一郎 おいでよ!狂物の町
  • 年  月から   年  月まで