Dolce(デザート):「料理と言葉のマリアージュ」
こんにちは。元シェフのコピーライター、齋藤大樹です。
本日はロンバルディア州のコモ湖からお届けする予定でしたが、
コラムの執筆が大幅に遅れてしまい、
ミラノのマルペンサ空港からおおくりします。
(いよいよ帰国)
最終回となる5本目は、
イタリア料理のコースでいう「Dolce(デザート)」です。
「Dolce」は“甘い”という意味。
なので、今回は少し甘い話といいますか、
ハッピーな雰囲気で締めくくりたいと思います!
これまでのコラムでもお伝えしてきた通り、
私は料理人として社会人キャリアをスタートしました。
修行期間は数年でしたが、
一線の現場でみっちり鍛えられたおかげで、
一定レベルのイタリア料理は作れるようになりました。
ただ正直なところ、厨房を離れて10年以上経った今でも、
子どもの頃からの夢だった料理人を辞めてしまったことに対する罪悪感を感じています。
私が料理を辞めた理由は、
「一生料理人として生きていくのは厳しいのではないか」と疑問を抱いてしまったからです。
当時の(料理人以外の)友人たちは、ほとんどがホワイトカラー。
平日は定時で働き、土日は思いっきりプライベートを楽しむ。
ボーナスも有給休暇もある。
一方で私は、厨房でセクションシェフ(部門長)を任されるようになっても、
休みも、睡眠時間も、給料も、著しく少ない。
そんな自分と、社会人生活を謳歌している友人たちを比べてしまい、
「どうして自分だけこんなに苦労してるんだろう」と、
惨めな気持ちになってしまったのです。
(ちなみに、ドラマ『バンビ〜ノ!』でも同じような描写があります)
今思えば、その考えはあまりにも幼稚でお門違いだったとわかりますが、
当時の私は未熟OF未熟。自分で選んだ道なのに、心身ともに疲れ果てていたのだと思います。
料理人を辞めるとしても、
もっと納得できるところまで料理を極めてからでもよかったのに。
なぜあのとき、辞めてしまったのだろう……。
そんな後悔の念が強いせいか、
いまだに料理人時代の記憶が夢に出てきてうなされることもありますし、
胸の奥にしこりのようなものが残っています。
しかしその一方で、料理人を経験してから
コピーライターになって良かったとも思っています。
そのおかげで、外食企業や食品メーカーの案件では、
食の知見を活かした企画やコピーで勝負できたり、
コピーライターなのにレシピ開発まで一手に任せていただけることもあります。
また、プライベートでは出張シェフやホームパーティー、料理教室を行い、
そこでの会話をきっかけに気の合う友人が増えていく。
公私共に、料理と言葉の“良いシナジー”が生まれているわけですね。
「食の仕事なら齋藤」と言ってくださる方が増えたのも、とてもありがたいことです。
・料理人を辞めた後悔
・料理人を経てコピーライターになって良かったという想い
この二律背反した感情が、今の自分の中に共存している不思議な感覚です。
料理と言葉の“二刀流”という唯一無二の武器を手に入れたことで、
「諦めた夢との付き合い方」の大切さに気づくことができました。
きっとこのコラムを読んでくださっている方の中にも、
何かの夢を諦め、第二希望として
今の仕事に就いている方がいらっしゃると思います。
夢を諦めるつらさ、痛いほどよくわかります。
でも、その諦めた夢に蓋をして距離を置くよりも、
むしろ上手に付き合っていくことで、
もしかしたら夢を叶えた人生よりも、楽しい人生を過ごせるかもしれません。
だから私は、
料理人時代の経験も、
料理を辞めた後悔も、
20代の残念過ぎる境遇の数々も、
すべてを糧にして、自分を最大化できるように頑張りたいと思います。
自分という“素材の持ち味”をいかに引き出すかを考える。
それこそが、料理人の仕事ですから。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
本日の「料理と言葉のマリアージュ」をもって、
私のリレーコラムは終了です。
次のバトンは、TCC新人賞同期の岩本光博さんにお願いしました。
岩本さんとは一度しかお会いしたことがありませんが、
明るくて面白い、関西仕込みの素敵なお兄さんです。
ということで、岩本さん、よろしくお願いします!
Ciao!
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