リレーコラムについて

あるコピーライターの話:2

後藤国弘

 今日は一日中、ずっと外で打ち合わせが続いてまして、さっき事務所に戻って来ました。夜からの書き込みになって、ゴメンナサイ。

 で、それは僕の友人の、あるコピーライターの話です。彼はあるテレビ局のドラマの番組宣伝の仕事を続けている男で、今から数年前のこと。ある恋愛ドラマのコピーの仕事を依頼された彼は、プロデューサーのОKをなかなかもらうことができずに、ちょっとあせっていました。何しろ主演男優は、出るドラマ全てが大ヒットというNo.1の男です。相手役の女優さんも旬の人で、二人の共演が注目を集めていました。ポスターの撮影当日にスタジオに呼ばれた彼は、テーブルに山ほどのキャッチフレーズを広げて、プロデューサーと打ち合わせをしていたそうです。するとそこに、撮影を終えた主演男優がやって来ました。周辺は、ただならぬ緊張感に包まれたそうです。当日その男優さんは体調を崩していたこともあって、かなりピリピリした空気の中。彼が書いたキャッチフレーズを一枚ずつ手に取った男優さんは、無言のまま原稿用紙をテーブルの上に投げて戻したそうです。いえ、別に悪気があってのことではなかったらしいんです。性格も、スゴクいい人らしいんです。たまたま体調が悪かっただけのことらしいんです。その打ち合わせテーブルの表面が、滑りやすかっただけのことらしいんです。でも、その男優さんが戻すつもりで投げた原稿用紙は、一枚ずつテーブルの上を、スーッと滑って行ったそうです。とてもとても哀しげに、スーッと滑って行ったそうです。僕の友人のそのコピーライターは、滑って来るキャッチフレーズがテーブルから落ちてしまわないように、しっかり受け止めていたと聞きました。その後、コピーは何とか決まり、視聴率も高く、ドラマは大成功に終わったそうです。でも彼は「もし、いつかまたその男優が主演するドラマのコピーの仕事が来たら、気持ちの問題として俺は断る!」と熱く語ってくれました。そんな彼を見て僕は、なんて男らしいコピーライターなんだと思いました。

 それからも、いくつかのドラマのコピーを書き続けていた彼ですが、一年ほど経ったある日のこと。新しいドラマの仕事が入って来たそうです。企画書と台本を読む彼の目が、出演者の部分で止まりました。そこには、あの、あの男優さんの名前が!一年前のスタジオでの出来事を思い出して、熱くなる彼・・・さあ、どうする?!しかし出演者の中には彼の目を釘付けにする、もうひとつの名前も書かれていたそうです。それは彼の大好きな、美しい女優さんの名前。せっかく依頼された仕事を断るなんて、とんでもない。彼は何事も無かったかのように、そのドラマのコピーを書いたそうです。そしてポスターの撮影に立ち会うまでもなく、コピーはとてもとてもスムーズに決まったと聞きました。それどころか、普段は忙しい忙しいと言って撮影に立ち会うことも少ない彼が(ほんとコピーライターって、撮影の現場では手持ちぶさたで寂しいんですよね・・・)その撮影には大喜びで立ち会ったそうです。その話を聞いた僕は、違った意味で、なんて男らしいコピーライターなんだと思いました。

 ふふふ。フリーのコピーライターでよかったことのひとつは、イヤな仕事は断ろうと思えば断れることです。でも、それがなかなか、できないんですけどね。
だから今夜もコピー書かなくちゃ。では、また明日。

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