リレーコラムについて

広告のない国へ。(キューバ旅行記2)

原田朋

「革命の時の映画を見るかい?まあ、プロパガンダなんだけどさ。内容は分かりやすいと思うよ」革命博物館を訪れた僕らに、ガイドのユニエが言った。自分の国の革命ムービーを「プロパガンダ」だなんて言うのはちょっと驚きだったけど、資本主義国の側から来た僕らに気を使ってくれているのかもしれない。映画は1961年のもので「ピッグス湾事件」と呼ばれるアメリカ傭兵部隊による侵攻を撃破したことを伝えるものだった。「カストロ率いる革命軍は、悪魔の軍団を撃破したのだ!」とナレーターが叫んでいた。この博物館はアメリカ側が上陸しようとしたピッグス湾のすぐ近くにあるのだ。南アフリカから来たツアーメンバーのマーリンが「反対側から、私たち資本主義側の行為がどう見えるかを体験するのは、興味深いことね」と僕に言ってきた。僕もそう思った。

キューバの熱帯気候と、アメリカとの戦いのエピソードは、以前に訪れた沖縄を僕に思い出させた。僕は「日本のいちばん南に沖縄という島々があって、そこはかつてアメリカとの戦争の舞台になったんだ。ここの風景は沖縄によく似ているよ」と言った。ユニエは「そうか。日本も昔アメリカと戦争したんだったね。言っておくけど、僕はアメリカの人々はいい人たちだし決して嫌いじゃないよ。ただ・・・アメリカ政府ってのはどうにも好きになれない」としゃべってくれたのは本音だったと思う。博物館の庭には当時の戦車や戦闘機が、濃いピンク色の花にかこまれて、飾ってあった。熱帯の美しい風景と、戦争の遺物のマッチングは、いつもやりきれない気分になる。

 博物館からバスで1時間弱のところに、アメリカ側が侵攻したピッグス湾があった。そこは海水浴場になっていた。水の透明度と美しさにおどろいた。スティーブとアンドリューとマーリンは水着を持参してきていて、海に入った。僕とリズは海に入らずに浜辺に腰掛けてみんなが泳ぐのを眺めていた。リズはイギリスで買ってきたのだろうか、分厚くてでっかく「CUBA」と書かれたガイドブックを読んでいた。あまり写真はなくて文字だらけ。メタルフレームの眼鏡の奥には、経済誌のライターらしい知的な表情の目があった。彼女との話は旅した国の話になった。「トモは次にどこの国に行きたい?」「うーん、ベトナムかなあ」「え?あなた共産主義者なの(笑)?」確かに、キューバの次がベトナムだなんて、そう思われても仕方がない。僕は、ふだん資本主義のど真ん中にいる分だけ、旅に出るときはそこから離れたいと無意識に思っているのかもしれない。キューバを旅して見かけた「広告」は、チェ・ゲバラや革命を讃える看板たちだけだった。

(写真はピッグス湾と革命博物館)

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