リレーコラムについて

「桃太郎」と集団的自衛権

木村亜希

TCC最高新人賞は「ボクのおとうさんは、桃太郎というやつに殺されました。」。
そしてペプシの桃太郎、auの桃太郎。
2014年(年度)はCMでも「桃太郎」がお茶の間を席巻しました。

日本の昔話で何が一番ポピュラー? と聞かれたら、
特に統計などとらなくてもきっと「桃太郎」ではないかと思うし、
CMはもちろん、「桃太郎」は落語でも舞台でも漫画でも繰り返し描かれ、
ストーリーを知らないと何かと不自由するであろう…というくらい
認知度が高い、日本を代表する物語である。

今日は、その「桃太郎」にひそむ、集団的自衛権の限界について書いてみます。

桃太郎は、鬼ヶ島の鬼たちが「近隣の村々で乱暴をはたらくので」
鬼ヶ島に鬼を退治しにいきます。

あまたある桃太郎本の中でも多くの皆さんが見たことがあると思われる絵本、
松居直 文、赤羽末吉 画の「ももたろう」の場合、

桃太郎は、庭に飛来した一羽のカラスが「おにがしまの おにがきて」
「あっちゃむらで こめとった」「こっちゃむらで しおとった」
「ひめを さろうて おにがしま」と鳴いたことにより、
鬼の悪事を知るのです(そして、このご注進カラスは鬼退治に参加しません!)。

桃太郎は、鬼の狼藉の直接の被害者ではありません。
悪を見て見ぬふりができないと義憤を覚えた第三者です。
おじいさんおばあさんに止められながらも
(最後は根負けしてきびだんごをつくってくれますが)、鬼ヶ島へ出かけていきます。
そりゃ止めますよね。まだ子どもだし。自分とこの村の問題でもないし…。

鬼に収奪行為をされた「あっちゃむら」と「こっちゃむら」はたぶん泣き寝入り。
もし仮に桃太郎の住む村に「一緒に鬼退治してくんろ」などと言ってきたとしても、
村人たちは集団的自衛権によるいくさに参加したりしないでしょう
(それが「おとな」の態度としては通常かと思います)。

ではなぜ、桃太郎は鬼退治に行くのか。
重要なのは、桃太郎は「桃から生まれた」異邦人である点。
もし鬼退治に失敗して、鬼が攻めてきたとしても、
桃太郎は基本的に部族の意見を代表しない一匹狼、しがらみに無所属な自由人なわけです
(育ての親のおじいさんおばあさんはいますが)。

ヒーローはいつだって孤独です。「勧善懲悪」を推進するヒーローが、
素性を明かさない(明かせない)ことが多いのは次元が違う存在にならないと、
「え、確かに悪いことはしたけど…直接関係ないアンタになんで俺怒られてるの?」
と敵に思われるからです(笑)。

ペプシのCMでは、「犬」には鬼を討つ理由があった設定になっており
物語がよりドラマチックになっていますが、
旅の途中でリクルーティングされた、おともの犬、サル、きじも、
本来きびだんご欲しさに参加している傭兵なんですよね。

歌にもなっているあのセリフ
「一つ ください、おともします」
とか言っていたくせに、他に追加メンバーはいないと決まると
「きびたんご たべたべ、おにがしま めざして」、
「こっちの 四にんは、にっぽんいちの きびだんごを どっさり たべてるもので、
なんびゃくにんりき」という結果に。あ、残ったきびだんご、全部食べてる!(笑)

松居・赤羽版「ももたろう」の場合、桃太郎一行は鬼を殺すことなく、改心させるのに成功します。
そして差し出された宝物も持ち帰らず、誘拐されていたお姫様だけを救出。
連れて帰っておじいさん、おばあさんを喜ばせ、お姫様をお嫁さんにして、めでたしめでたし。
鬼ヶ島の宝をもらって凱旋帰宅するバージョンのエンディングより清廉潔白です。
余計な禍根を残しません。宝物ではなく、嫁をもらってきたほうが親に喜ばれる、というのは
何だか現代的にも感じますね…。

できるかできないかうじうじ悩んだりせず、自分の損得を勘定に入れずに
「鬼」が象徴する理不尽に挑もうとするキラキラした無鉄砲さ
(力が伴った「坊ちゃん」みたいですね)。
私たちが桃太郎の青春冒険譚を語り継ぎ、応援してきたのは、そんな
桃太郎のキャラクターに負うところが大きいのかも知れません。

そんなわけで?
絵本書評blog「おとなの絵本案内」はじめてみました。
http://otonaehon.hatenablog.com/

(次週予告)

終始とりとめない1週間でスミマセンでした
(なんか2回も鬼の話してるし)。

次週のコラムは、

ニコレットがなくても禁煙できて、
ライザップがなくても減量できて、
コピーが上手いのに人望も厚いスーパーマン
(いや、ウルトラマンとお呼びしたほうが喜ばれるかも?)。
神山浩之さんにお願いします!

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画像1 「ももたろう」(松居直 文、赤羽末吉 画)
画像2 あっちゃむらで こめとった
画像3 酒盛りしていて油断していたり、帰りに船で送ってくれたりする鬼が、そんなに悪い人(鬼)には見えません。

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