リレーコラムについて

新世界市場の奇跡

日下慶太

先のコラムで書いた『商店街ポスター展』の第1回目の舞台、
新世界市場のことについて。

そもそものはじまりはこの場所でコタケマンという絵描きが
『セルフ祭』というイベントを始めたのがきっかけであった。
ツムテンカクという新世界一帯で行なわれるアートイベントに招聘された彼が
通天閣や串カツ屋などで賑わう新世界の中、時間が止まったような新世界市場を担当した。
彼はその場所を自身の作品と様々なアーティストで埋め尽くそうと片っ端から声をかけた。
ぼくも声をかけられ、写真家として寝てる人100人の写真を展示することになる。
たくさんのお客さんが訪れ、新世界市場は異様な熱気に包まれた。イベントは成功だった。
しかし、イベント終了後の商店街は元の淋しい商店街に戻っていた。
若いアーティストと商店街の人々の交流もほとんどなく、
ましてや信頼関係などなく、若者が騒いだだけ、という結果であった。

2ヶ月後に第2回のセルフ祭が予定されていた。
このままではいけないと、6人のメインメンバーは動き出した。
震災後に気仙沼からやってきたはるき、東京からやってきた池田社長、
北海道からやってきたはんの3人は、居を変えて、商店街の空き店舗に移り住んだ。
風呂無しで28000円という格安の条件で。
メンバーたちは、日々、挨拶、掃除、配達などをして商店街に溶け込んでいく。
主催者の1人として手伝ってくれと誘われたぼくは、
ぼくなりにできることは何かと考え『商店街ポスター展』を企画した。
他のメンバーも店の人と一緒になって商品を企画したり、
店のものをパフォーマンスしながら売りさばいたりと、
それぞれの表現が「お店のため」というベクトルに向いた第2回セルフ祭は大盛況だった。
店とぼくたちの信頼感は深まった。

その後、何度か新世界市場でセルフ祭で行なれた。
ぼくは、写真を展示したり、その場で写真を撮り、
プリントし、悪口を書く「写真・プリント・悪口」という
サービスを閉店した写真屋の前で行なったり、
「イスラム原理主義者タリバーン」
「太陽のおっさん」(写真参照)
「いいにおいのするホームレス」(ルンペンの格好をしてシャネルの香水をたっぷりつける)
「インドの修行僧クサドゥー」(写真参照)
と仮装をしたりしている。乳飲み子を家に置いて、嫁に怒鳴られながら。

2歳の子どもから83歳のおばあちゃんまで。
フリーターから医者まで。
釜が崎のホームレスからハリウッド男優まで。
アマチュア画家からプロの絵描きまで。
だんじりヤンキーから渋谷系のミュージシャンまで。
台湾人からガーナ人まで。
様々な人が祭りに参加し、
そこでつながった人たちがまた別のイベントをしたりと、
大阪の1つのうねりとなっている。

セルフ祭は、表現の完成度よりも、表現者の表現したい気持ちを大事にする。
イベントをこなしてかかるプロのアーティストよりも、
素人のおばはんの表現力の方が強ければそちらをおもしろがる。
表現するのが初めてであればなおのことおもしろい。
ポール・マッカートニーの16枚目のアルバムよりも、
無名のアーティストのファーストアルバムの方がおもしろい。
そう、セルフ祭は「ファーストアルバムの衝撃」がたくさん集まっているのである。

セルフ祭のもう1つのポイント。
洗練されたアートやデザインが失いつつある「プリミティブな力」がこれにはある。
「祭り」はそもそも人間の根源的な力を解放するものだ。
だから「祭り」にこだわっている。
「人間の祝祭の力」を1つの表現物に1つにしたものが太陽の塔。
セルフ祭の造形物にもそんなノリがある。
同じ大阪だからか、ああいったノリがどこか体に染み込んでいる。

セルフ祭とポスター展の大きなエネルギーがシャッターを2つ開けた。
1つは「いちばギャラリー」といてギャラリー兼へんてこ雑貨屋となり、
もう1つは「ピカスペース」という呑み屋になった。
セルフ祭でつながった子ども、女子高生、おばあちゃん、
ヤンキー、ハリウッド男優、外国人旅行客など
様々な人が訪れて、飛び入りで変な人間がやってきて、
奇跡が起こり、また人と人がつながって、また奇跡が起こる。
この新世界市場の奇跡は今月号のソトコトで巻頭8ページで特集されている。
これもまた奇跡である。
http://www.sotokoto.net/jp/latest/?ym=20140

大阪に来たらぜひ一新世界市場を訪れてほしい。
ピカ・スペースに飲みにきてほしい。
セルフ祭に出演者として参加してほしい。

結局、ぼくたちは「新世界市場」という作品をつくっているのかもしれない。

隙ある風景 http://keitata.blogspot.jp

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