カブトムシ
昔々あるところに、ひとりの男の子がいて、
その子があまりにもカブトムシの絵ばかり描くので母親は心配し、彼を専門家のところへ連れて行った。
母親はカブトムシだけがびっしり描かれた一冊のノートをその専門家に見せた。
専門家は一通り説明したあと、そっと病名をそえた。
ここで彼の母親は何を思ったのか、憤慨して立ち上がった。
わたしの息子は近所の人気者だし、友達もおおぜいいる。
勝手に病名をつけるな。
母親は専門家の部屋を出た。
去っていく母親のハンドバッグのなかにはあと四冊ノートがあってそこには全てにびっしりカブトムシが描かれていた。
まあそんなこんなで、いろいろあって、その子はいまCMプランナーという仕事で毎日変なこと考えながら飯を食っている、と伝え聞く。
たぶん、どこかの物好きが必要としてくれたから、だと思う。
カブトムシというバンドのジョン・レノンという人はたしかマザーという曲で、息子よ、俺みたいになるな、俺は歩けもしないのに走り出したと言ったが、
俺はお前らにいう、
息子よ、人は歩けなくても走れるし、
それどころかバク転とかできるときもあるんだぜ。
てなわけで、また。