リレーコラムについて

師匠がまだ来ない件。【中編】

北田有一

【前編】のつづき。

師匠との出会いから、はや2週間。日誌を書くだけの日々がつづき、
いつ異動を知らされるかビクビクしていると、
突然、師匠に話しかけられます。

「ラジオCMの仕事があるんだけど、やってみる?
 僕は忙しいから一応見るけど、基本的には、君が考えていいよ」

(キターーーーーー)

「はい、がんばります!」

「面白いやつ考えてね。とりあえず来週まで。」

ラジオCMなんて書いたことないのに、いきなり日誌からラジオCMに大昇格。
そうか!日誌を見て、俺の才能に気づいてくれたのか、
うんうん、さすが師匠だなぁ。見る目がある。
(もちろん、大きな勘違いです。)

翌週、約束の時間になります。
寝ないで考えた案をプリントアウトして、スタンバイします。

しかし、時間になっても師匠は来ません。
きっと大事なプレゼンが押しているんだろうな。
忙しい人だもんな、うん、仕方ない、待とう。

待つこと、30分。一向に来る気配はありません。
おそるおそる携帯に電話を掛けます。

「もしもし、平○(←師匠の名前)さんですか。」

「どうした?」

「あの約束の時間なんですけど」

「なんだっけ?」

「ラジオCMを・・・」

「あー、打ち合わせ入っちゃったから、来週にしようか」

えーー。かわいい後輩がいっぱいラジオCMを考えたのに、
他の打ち合わせを入れるなんて。。。
そんな甘っちょろいことを考えていた現代っ子は急に焦ります。

どうしたらいいんだ?このまま案を見てくれなかったらどうしよう?
そもそも、こんなラジオCMの真似事みたいな案ばかりで、大丈夫なのか?
これ面白いのか?とんでもない見当違いな案ばっかりだったらどうしよう。

心配していても仕方ないので、自分なりに案を見直して、
また新しい案を考えます。

そしてオリエンからあっという間に2週間が経ち、
再び、案を見てもらう時間です。実は、もう翌日がプレゼン!!

プレゼンって簡単に延期できるのか?なんて考えながら、
緊張して師匠に案を見せます。

師匠は、静かに案を見ながら、時々苦笑します。

「おすすめはどれ?」

「えっ」

案を出すのに必死で、おすすめとか考えてませんでした。
そんなことを俺が決めていいのか。レストランのシェフみたいじゃないか。
適当に答えます。

「これとこれとこれです」

「ふーん」

すると、はじめて師匠の左手がペンを取ります。
「へぇー、師匠は左利きなのか」と感心している余裕など
当然ありません。心臓が飛び出そうなくらい緊張しています。

何かごにょごにょ書いています。そして、案を返されます。

「プレゼンまでに直しといてね。」

「は、はい。」

返された案を見てみると、これが自分の案だったのかと思うほど、
シャープで、ちょっと面白い案になってます。
すごい!ちゃんとラジオCMになってる。

と言っても、大きく削られたり、順番が入れ替わっていたり、
すこし書き足されているという感じです。

なのに、こんなに違うのか。いや、本当に。

今となっては、自分にも段々後輩ができて分かることですが、
元の案を生かしながら修正して、面白い案にするのは、実はけっこう難しい。
どうしても全部書き直したくなっちゃうというか、
自分でやった方が早いじゃんとかって誰でも思ってしまうわけですね。

もちろん師匠はひとりで仕事をやることも多いし、
よくいる後輩に全部丸投げタイプとは全く違うのですが、
今でも、企画の原石みたいなものを見つけて、
磨く才能はすごいなぁといつも感心します。

先輩ぶって余計な修正を加えたり、案をつまらなくしたりするCDも、
けっこう多いですからね。
(と聞きます。僕はそういう人と仕事したことないですが。)

そして、無事にプレゼンに間に合い、案も採用されて、いよいよ収録です。

【後編】へつづく

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