リレーコラムについて

1000回やっても慣れない

武井宏友

僕がオカキンにいたのは10年間。
けれど、厳密に言うと入社する前から
時々お手伝いをさせてもらっていたので、
一緒に仕事をしていた期間としては
もう少し長くなる。

 

その間にいったい何回
岡本さんにコピーを見せただろうか。

 

毎日のように見せることもあれば、
数日あくこともある。
1日に2〜3回見せることもある。

 

少なく見積もっても1年で100回、
合計で1000回は軽くこえている。

 

1000回、いつも同じような状況で、
見せる相手も同じである。
ふつうそれだけの数をこなせば
ちょっとは「慣れ」てもいいはずである。

 

だがそうはならなかった。
そうはさせないただならぬ気配を感じた。

 

「武井、やろうか。」
という言葉とともに、それは始まる。

 

パソコンとコピーと
原稿用紙と鉛筆を持って、
自分のデスクから
打ち合わせ用のテーブルに移動する。
10人がけのテーブルにたったふたり。
しんと静まり返った空間。
業務用冷蔵庫の音だけが低く響いている。

 

沈黙の時間が流れる。

 

喉は渇き、口はカラカラ。
手にはじわりと汗をかいている。
緊張している。

 

しばらく無言の時間がつづく。

 

オカキンではコピーの案出しは
基本手書きのコピーになる。
三菱鉛筆Hi-uniの2Bで書かれた
コピーの束を手元に抱え
順番をチラッと確認しながらその時を待つ。

 

「はい、いいよ。」
という言葉の後に、順にコピーを出していく。

 

ほめられた記憶はほぼない。

 

すべてを出し終えると
コピーを直したり加えたりまとめたりして
その回は終わる。そして大体、

 

「まあ、引きつづき。」
という言葉で、また次のコピーを考え始める。

 

あの緊張感はなかなか
経験できるものではないかもしれない。
あの状況でずっとやってきたのだから
もうこわいものはない、という気もする。

 

そしていまでもコピーを提案する時は
そのコピーを岡本さんに出せるか、
というのが自分の基準になっている。

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