球
岡野草平さんからバトンを受け取った、
電通の小川祐人と申します。
何気に最後に書いたのが2022年で、
最初「この前も書いたのですいません」とお断りしたのですが、
給料を下げられたらどうしようという不安がよぎり、
お引き受けすることにしました。
そうです。
岡野さんはいま、僕の部長です。
(でも給料決めるのは別の方なんですけどね)
ということで、せっかくなので、
給料は特に上がらないことを承知で、
岡野さんの話から始めてみようと思います。
岡野さんとは、僕がクリエイティブに来てまだ最初の頃にお会いしました。
最初の印象は、「フェデラーみたいな人」でした。
とある企画会議。
CDは澤本嘉光さん。
経験したことある人はわかると思うのですが、
ひととおり企画を出し終わったあと、
「それはそれとして」という時間が始まります。
その場で別案を考えてみるコーナー。
「なんかもっとおもしろくならないかな」
澤本さんが、不意にボールを投げます。
「○○ってのどうですかね?」
すかさず打ち返す、岡野さん。
「あはは。じゃあ設定は○○ってことで」
と澤本さんが差し込めば、
「いいすね。タレントは○○とか」
岡野さんは深く、しかし軽やかに打ち上げる。
「決め台詞は〇〇で」
と澤本さんが決めたあとも、まだ終わらないラリー。
その頃にはすでに、自分の企画やコピーはまるでコートの土の如く、
なかったものとしてテーブルに散らかっています。
「第三話あたりで○○が○○して」
「それはやばい」
「○○が実は○○の設定だったってことで」
「あはは」
「実際に○○で撮影しちゃったり」
「いいね」
「それ、たぶん予算アウトです」
と、そこで線審さながらのスピードで繰り出すのは、
CP(クリエイティブプロデューサー)の和田耕司さん。
「だめかぁ」
「でも、○○ならいけますよね」
「それいいじゃん」
「はい、それならセーフです」
フェデラーVSナダルさながらのラリー。
なんで、そんな球が打ち返せるのか。
なんで、そんなに速く、重く打てるのか。
僕はただ、首を左右に振り続けながら
球を見失わないようにするのがやっとでした。
「岡野、ちょっとコンテにしといて」
「OKす」
そんなやり取りで、ひとまずゲームセット。
「小川、ついてこれてますか?」
澤本さんに尋ねられ、
「はい」と「いいえ」と「すいません」が入り混じった、
よくわからないへらへらした表情を浮かべ、
「がんばります」と答えていた当時の自分。
(以上、昔の記憶をもとにした演出なのでご容赦ください)
クリエイティブとは、
飛んできたボールに対する反射の仕方である。
それ以来そんなことを、色々な人と仕事をしながら考えたりします。
そしてそこにこそ、その人の個性が現れる(気がする)。
とにかくライジングで打ち返す人。
深く腰を入れて打ち返す人。
毎回すごいスピンをかけてくる人。
明らかに相手の体めがけて打ち込んでくる人。
打ち合わせが撃ち合いになって、ほぼ流血状態です。
ボールを散弾銃みたいに分裂させてくる人。
どの話に照準を合わせればいいのかわかりません。
いつの間にかボールを煙幕とすり替える人。
議論がよく見えなくなって、「謎な余韻」だけが残ります。
競技そのものを変えてしまう人。
ラリーをしていたはずが、いつの間にか穴掘りになっていることも。
・・・などなど。
自分はどうなんだと言われたら、
たぶん、「ボールを抱えてしまう人」かもしれないです。
会話でも仕事でも、その場でうまく返すのが苦手。
このコラム、こんな文章ですが、結構時間かかってます。
というわけで。
岡野さん、給料、上げてくれないかな。