リレーコラムについて

大阪人としての夢

水本晋平

大阪人としての夢。

それは『探偵ナイトスクープ』に出ることである。

 

探偵ナイトスクープとは、

関西では知らぬものはいない、朝日放送の超人気番組だ。

視聴者から寄せられた、依頼に基づき、

探偵たちがそれを解決していく。

その依頼内容は、バラエティに富み、

30年以上にわたって爆笑と号泣を茶の間に届けている。

 

思えば、就職で東京に出てきた頃は、

金曜日の夜に、ナイトスクープが見られないことが

結構ストレスであった。

そして、それは今も変わらない。

木曜の夜には「ビーバップハイヒール」を見て

ちょっとだけ賢くなった気分になりたいし、

水曜の夜には「今ちゃんの実は…」を見て、

ミサイルマンの漁をぼーっと見ていたい。

見逃し視聴にこれらの番組も配信しているが、

関西ローカルの番組は、スマホで集中して見るものではない。

毎週決まった時間に、テレビで気楽に見たいのである。

関西ローカルの番組が全て

自宅のテレビで、リアルタイムに見られるサービスがあれば、

僕はNetflixを解約して、すぐにそちらに加入するだろう。

月額2000円だって、厭わない。

 

そんな見るだけで十分面白い番組に、なぜ出たいか。

 

ナイトスクープは、

凡人にとっての人生最高の晴れ舞台だからだ。

 

日陰を好む人生だったとしても、

この世に生を受けた以上、

一度くらい世間から注目を浴びたい。

そう思うのが人間の性である。

 

金メダルもノーベル賞も紅白歌合戦も

縁がないことが決まっている僕のような人間にとって、

ナイトスクープ以上にふさわしいチャンスはない。

 

なぜなら、この番組の主役は、

局長の西田敏行でも、美人秘書でも、

優秀な探偵たちでもない。

毎週登場する、3組の依頼人である。

彼らこそが主役であり、

番組のクオリティを左右する重要な存在なのだ。

 

しかし、出演するには相当の覚悟がいる。

 

まず、皆が見る。

見られるからこそ、晴れの舞台なのだが、

ナイトスクープは桁が違う。

結婚式なら、見られたくない人は呼ばなければいい。

しかし、ナイトスクープはそうはいかない。

家族、親戚、幼馴染、恩師、初恋の人。

水本がナイトスクープに出ていたという情報は、

自分からFacebookで報告せずとも、

おそらく学生時代のママ友ネットワークなどを中心に、

あっという間に関西中を駆け巡る。

昔なら「出るなら先に言っといてよ〜」「ごめん!」

で済んだかもしれないが、今はTverがある。

1週間の見逃し猶予が生まれてしまった。

そしてそのURLは簡単にシェアができる。

 

「水本出てたけど、ハズレ回だったね。」

 

そんなことを思われたなら、

探偵手帳をもらったところで、

二度と関西には帰れないだろう。

同窓会にだって行けなくなる。

実際、すべての回の全依頼が面白いわけでもないから、

この問題は、結構リアルである。

 

そう。

ナイトスクープは、自分自身が試されるのだ。

 

1発ネタをやるわけではない。

繰りに繰った、すべらない話を披露するわけでもない。

自然体で依頼内容を相談し、

あくまで自然に笑ってもらえるか。

 

ナイトスクープの出演は、

クリエイティブディレクションに似ている。

 

まず大切なのは、ミッションの設定。

一体何を探偵さんに依頼するか。

アイデアを考えるのは、探偵を含む番組側。

彼らがジャンプできるための土台を提供する必要がある。

簡単すぎてもいけない。

やみくもに難しくてもいけない。

幅を狭めることなく、あらゆる手法が取れるか。

正しいだけで面白くないこものが生まれないか。

最終的には、馬鹿げた手法にたどり着けるか。

依頼の質が、アイデアの質を決めるのだ。

 

次に、ゴールイメージの確定。

人情系でいくのか。実験系でいくのか。

自分は面白い人間ではない。

であれば、フックになりそうな他人を使うか。

将来の子供を、ナイトスクープ映えするように

育てるという手もある。

結構これは本命の策だと思っている。

子供といえば、名作「ゾンビを待つ子どもたち!」。

松本人志が語る感想を聞くだけでも面白い。

https://youtu.be/BLwrWeWxIEI

ナイトスクープ出演を見据え、

子供達の性格も熟知した上で、

ゾンビの撃退練習を仕向ける。

そんな奇策を僕は思いつけるのだろうか。

そして父の奇怪な教育を、

将来の妻は許してくれるだろうか。

 

そんなことを考え続けて、

結局まだ一度も依頼文を書いたことはない。

中途半端な依頼で出るくらいなら、

出ない方がましである。

どうせ出るなら、

名作として後世に残したい。

人生100年時代。焦ることはない。

我が子がダメなら、

孫を題材にしたっていい。

ここぞ!というタイミングで、ペンを取るのだ。

いつの日か最高の依頼文を書くために。

その日のために、

僕はコピーライターの仕事をしているといっても過言ではない。

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