リレーコラムについて

夢を見ている。

早坂尚樹

あまり人に話したことはなかったが、夢の話をしようと思う。
といっても、将来の夢ではなく。寝ているときに見る、夢の話だ。

みなさんは、明晰夢を見たことがあるだろうか。
明晰夢とは、【夢と認識しながら見る夢】のことである。
実は、かなり多くの人が、一生に一度は明晰夢を見るとされている。(一説には30%~40%)

それを見ること自体は、珍しいことではないのだが、
僕は、物心ついた頃から、高確率で、夢が明晰夢だった。

実はこれ、もの凄い、エンターテイメントなのだ。
なぜなら、夢を見ているという認識があるということは、
夢のコントロールが可能、ということだからだ。

動物になった夢を見たとしよう。
すると、その動物として世界に入り込み、好きなことを体験することができるのだ。
空を飛ぶ夢を見たら、そこから自由に旅にでることもできる。

もはや、夢が現実を超えはじめ、究極の娯楽になるのだ。
そのせいか、小さい頃から、僕は寝てばかりいた。
現実よりも、楽しいことが、夢の中で待っているからだ。
二度寝は、明晰夢の可能性が高いので、積極的にした。
1日20時間ぐらい寝たこともある。

でも、欠点があった。【見る夢のコントロールはできない】のだ。
つまり、夢がはじまってからは、夢を自由にコントロールできるが、
見たくない夢を見てしまう可能性もあるあるのだ。
しかし、ダテにたくさんの明晰夢を見てきてはいない。
怖い夢を見たときでも、自らの力で、現実世界に戻る能力も身につけた。
それからというもの、僕は無敵になった。
見たくない夢の時は起きて、見たい夢の時は、膀胱が許す限り寝ればよかったのだから。

そんなある日、僕は、何者かに追われる夢を見た。
「あ、まずいタイプの夢だ。」
すぐさま、現実世界に戻ることにした。
いつも以上に、目を強く閉じ、開ける。
すると、そこには、いつもの家のベッドがあった。

「あー嫌な夢だった。」
目が覚めた僕は、スッと、立ち上がり、トイレへと向かった。
ふと何か気配を感じ、何だろう?と振り向くと、そこには、なぞの男がいた。
そして、男は、次の瞬間、僕を刺した。
「うわぁーーー!」
あまりもの恐怖と驚きに、大声を出した。
次の瞬間、僕は、ベッドの上で飛び起きていた。

「なんだったんだ、今の悪夢は…」
そう思いながら、また立ち上がり、トイレへと向かった。
ふと、嫌な予感がした。
まさかね。そう思い、振り向くと、
そこには、またなぞの男がいた。そして、また僕を刺した。
そう、完全に目を覚めたつもりが、そこはまだ、夢の中だったのだ。
「うわぁーーー!」
次の瞬間、僕はまた、ベッドの上にいた。
今度こそ、本当のベッドの上にいた。
それでも、恐怖のあまり、「今度こそ現実だよな」と何度も確かめた。
その日は、はじめて、夢と現実の境を失い、生きた心地がしなかった。

夢で、夢の夢を見る、夢を見たのだ。

そして、それから何年かして、ある日、僕は、ある映画を、見にいった。
レオナルド・ディカプリオ見たさに行った映画だったのだが、
その内容を見て、驚いた。

「夢の階層」

インセプションを見た時の衝撃は忘れない。
まさに、そこには自分の体験した世界があった。
デジャヴともまた違う、この不思議な経験は、今でも鮮明に覚えている。
きっとクリストファー・ノーランも、明晰夢を見るタイプで、多重夢を見たのだろう。

以来、不思議なことに、あまり明晰夢を見ることはなくなった。
それどころか。夢を見ることすら、今ではあまりなくなってしまった。
だけど、それでいい。今は、夢よりも、現実を楽しめているのだから。
寝たいだけ、寝ることができた、そんな昔を懐かしみながら、
今日も、眠たい目をこすり、コピーに向き合っています。

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