口先だけ
ついに打席がまわってきた。
2022年、当時所属していた会社で
AEDの案件をやれることになった。
CDの成田さんもかつて、
このクライアントの仕事で
TCC新人賞を獲っている。
チャンスだ。
正直、これを逃したら
もう獲れないかもしれない。
僕は、下心まるだしで
肩をぶん回し、
コピーを書きまくった。
筆は乗りに乗り、
あの手この手でうまいこと言って、
だからAEDを使いましょう。
的にまとめるようなコピーを量産した。
そんな折に、ちょっとした事件が起きた。
身近な人が、突然路上で倒れたのだ。
結論から言うと、大事には至らず、
AEDを使うこともなかった。
だけどこれが僕にとっては、
かなりショッキングな
出来事だった。
AEDを使いましょうと
分かったようなコピーを
あんなに得意げに散々書いておきながら、
いざ自分がその状況に直面すると
情けないほど何もできない。
心臓はバクバク、足はガクガク。
ただただ怖くって、呆然とするだけだった。
そして、怖さの後に、
猛烈な恥ずかしさに襲われたのである。
あああ〜〜自分はなんて
口先だけの仕事をしてるんだ〜〜〜〜
と。
いかに自分が
安全圏から物を言っていたか。
覚悟も実感も伴わない
浮ついたコピーを書いて
満足していたか。
誰に咎められたわけでもないけど、
この一件で自身のコピー・スタンスを
猛省した僕は、
自分がリアルに体感したことをもとに
書き溜めていたコピーを大幅修正し、
同時に深く肝に銘じたのだった。
これからは、
せめて自分が本当に感じたこと、
本当だと思うことだけを
責任持って書くようにしよう…と。
頭が真っ白になることを前提に、
AEDはつくられている。
さっきまで普通に笑っていた人の
心臓が止まる。
どんなに救急車が急いでも、
そばにいるあなたには敵わない。
義務ではない。見返りもない。
それでも動く人がいる。
結局その時書き直したコピーで、
翌年なんとか新人賞をいただきました。
電通名鉄コミュニケーションズの
山中と申します。
このコラムも
調子のいいことばかり書いて
後から見返したときに恥ずかしくなる、
なんてことがないように
十分に気をつけながら
書いていきたいと思います。