ラスト忘れ草

（前回からの続き）

緊急入院からの胆石大移動。
４日ぶりにシャバに出た後のアイコスの旨さは格別だった。

しかし結局のところ４月末に手術。
石がなくなったとはいえ、
すっかり恐怖を植え付けられた私は
酒と油物を完全に控えるというスーパー健康的な生活を送り
２回目の入院を迎えるころには体重が６キロ落ちていた。

そしていよいよ再入院の日を迎えた。
前回の反省を踏まえ追加料金はかかるが
個室をオーダーしていた。
入院にまつわるエトセトラも慣れたものであり、
明日には手術。
そして負担の少ない腹腔鏡手術ということもあり
何もなければ手術２日後に退院だ。
不在中の仕事のあれこれも済ませていたが、
唯一気になっていたことがあった。
それは、

“いつゴルフに復帰できるか？”

ということだった。

５月の半ば過ぎに１０年近く出場している
仲間内のゴルフコンペが控えていて
どうしてもそれに出たかったのだ。

コンペの日は手術からちょうど３週間後。
ググったりChatGPTに聞いたりした結果、
腹腔鏡手術からのゴルフ再開は
概ね１ヶ月から２ヶ月後が望ましいというものだった。

３週間。
ギリギリいけるんじゃないか？

そう思いながら手術当日を迎える。
今回も全身麻酔下なのでまったく記憶がない。

肩を叩かれて手術台の上で目覚めたら、
「無事終わりましたよ」
と医者に告げられた。

そのまま病室に運ばれ、今日はこのままベッドの上で絶対安静らしい。
明日には動く練習して、明後日には退院。
なかなかのスピード感である。

そして次の朝。
回診に来た医者はゴッドハンド先生でなく、その弟子だった。
弟子「どうですか？まだ切ったところが痛いかと思いますが」
私「はい、でも大丈夫です！」
弟子「午後から少し動く練習しましょうね」
私「あの・・・一つ聞きたいのですが、ゴルフっていつからやっていいですか？」

こいつは急に何を言い出すんだとばかりに
弟子医者は怪訝な顔になった。
弟子「ゴッ、ゴルフなんて２ヶ月、いや３ヶ月はダメですよ！！」
私「ですよねっ！すみません！！」

絶望である。

ここまで根気強く読んでいただいた方も
弟子医者と同じように、こいつは何言ってるんだ？
と思われたことだろう。

しかし私は、なんというか
ゴルフ大好きおじさんなんです。
あの患者Dのおじさんがアル中だとしたらゴル中ともいえる。

どうしても出たい・・・
絶望の中にあっても、私は諦めていなかった。
ゴッドハンドからの術後診断が２週間後に予定されていたからだ。

無事退院した私はとにかく療養に勤めた。
お腹に負荷をかけないために歩く以外の運動はせず、
食事もお酒も制限かけなくていいですよ。
と言われていたが、断酒断油を継続した。

そして、ゴッドハンドとの面談。
血液検査の結果も問題なし、
術後の傷の様子もいいですねと。
何か他にありますか？
と尋ねられたので満を辞して
禁断のあの質問をぶつける。

私「１週間後にゴルフコンペがあるんです！！！
行ってはダメでしょうか！？？？」

一瞬キョトンとした顔をしたゴッドハンドはこう言った。

ゴッド「・・・どれくらいガチなやつ？」
私「いえ！決してガチなものではなく！」
ゴッド「エンジョイ的な？」
私「はい！」

勿論である。
私はプロゴルファーではく、プロコピーライターなのだから。

ゴッド「腕の運動はどんどんして欲しいんだけどねえ」
私「はい！完全手打ちでいきます！」
ゴッド「お腹を縫ってるから、腹圧をかけてほしくないんですよ」
私「はい！腹圧０でスイングします！」
ゴッド「ほんとは１ヶ月ぐらい待ってほしいけどね」
私「はい！（３週間は、ほぼ１ヶ月）」
ゴッド「気をつけてね・・・」
私「はい！ありがとうございます！」

１週間後、私はティーグランドに立っていた。
ゴルフスイングにおいて通常悪とされる手打ち。
それで１８ホールを回って私は伝説になるのだ。

ただし、星にならないように・・・

完全手打ちの打球はいつもより飛ばなかったし曲がった。
でも、そんなことはどうでもよかった。
あの地獄くぐり抜けて、生きて今ここにいる。
それだけでいい。

腹圧０でずっとラウンドしていたが
最後のドラコンホール（誰がいちばん飛んだかを競うホール）で
私は同伴者にこう告げた。

「腹圧”２”解放します」

ティーアップしたボールが憎き胆石に見えてくる。
腹圧２で振り抜かれた球は緩やかなドローボールの軌道を描いて
２５０ヤード先の左ファアウェイにギリギリ落ちた。

そのホールのドラコンを獲ったのは私だった。

_______________________________________________

万が一ここまでお付き合いいただいた方、
変なものを読ませて申し訳ございませんでした。
志半ばで流れ出てしまったあの胆石も成仏したことでしょう。

それでは、コラムのバトンは後輩の小川祐人くんに渡したいと思います。
彼が入社間もない頃から知っておりましして、
クールで超優秀なのに痛みを感じる神経が麻痺していて
どんな辛い状況でもなぜか笑っている強い男です。

胆石発作があっても痛みを感じなさそうでちょっと心配です。
どうぞよろしくお願いいたします。