リレーコラムについて

迷惑なコピーライター

森俊博

2年間、電通中部支社に出向していたことがある。

僕の前の席には、半年ほど前に転職してきたばかりで、
1つ年上のアートディレクターが座っていた。
のちにカンヌでグランプリを獲り、スターに昇り詰める𡈽橋通仁さんだ。

当時は彼もまだ入社して間もなく、電通での実績も少なかったので、
出向してきたばかりで全然仕事がなかった僕と
「目立つ仕事とか賞とか獲って、実績作らないとやばいっすね~」
という話をよくしていた。もう11~12年も前のことだ。

そんな𡈽橋さんと、ある仕事を一緒にやることになった。

その打ち合わせの時に僕がなんとなしに口にした言葉があるのだが、
どうやら彼はいまだにその言葉を根に持っているらしい。
宣伝会議のコピー講座でも毎年受講生にその話をして、
僕をネタに笑いをとっているという。まったく迷惑な話である。

言われっぱなしも何なので、この場を借りて僕も言い訳をしようと思う。

その仕事は愛知県の競合コンペで、前の年に僕が制作しており、
お役所らしくないメッセージ性の強い広告でまた決まるはずだと踏んでいた。
だから、かなり気合を入れて何度も何度も打合せをくり返していた。
お互いに真剣だった。絶対いいものを提案して勝ち取ろうと必死だった。

ようやく大まかなコピーの方向性を決めて、ビジュアルをどうしようか、
という話になり、なかなか結論が出ずに膠着状態になった時だ。
のちにカンヌ審査員も務めることになるスーパーADに向けて、僕はこう言い放った(らしい)。

「メッセージが伝わるなら、ビジュアル真っ黒でもいいっすよ」

・・・・・・・・・うん、まあ、怒るわな。
アートディレクターにビジュアル真っ黒でいいって。そりゃあ屈辱である。

打ち合わせはそのまま進んでいき、僕はそんなことを言ったことすら覚えていなかった。
かなり時間が経ってから「あれはめちゃくちゃムカついた」と言われたので、
相当深くスーパーADのプライドを傷つけたのだろう・・・。

ただ、この言葉は僕なりに考えがあってのことだったと思うのだ。
たぶんこんなことを考えていたはずだ。

何とかこの膠着状態を抜け出さなければ前に進めない。
沈黙が続いても仕方がない。重い雰囲気を変えなければいけない。
何なら、ちょっと頭を切り替えて気楽に考えてみてもいいんじゃないか。
佐藤可士和さんの3色だけのSMAPの広告みたいに、超シンプル路線もあるんじゃないか。
そうだ、シンプルだ。シンプル イズ ベストだ。
きっと𡈽橋さんなら超シンプルでかっこいいビジュアルができるはずだ。
たとえ真っ黒でも・・・・・。

いや、すいません。𡈽橋さんごめんなさい。何も考えてなかったです。

てなことがあったのだが、このコンペは無事に採用され、
このあと𡈽橋さんが最高のビジュアルを作って、
僕も粘ってコピーを書いて、愛知の広告賞でグランプリを獲ったり、
僕も新人賞を受賞したりと思い出深い仕事になった。

どちらかというと、その制作過程の方で、
僕はめちゃくちゃ𡈽橋さんに迷惑をかけたと思っている。

粘って、というのがちょっと尋常じゃなかった。

プレゼン直前までコピーを変え続けたのはもちろん、
採用が決まってからも撮影までに何度もコピーを変え、
撮影現場でもこんなコピーもあるかもしれないとカットを増やし続け、
決めた写真に合わせてまたコピーを変え、クライアントがOKを出しても変え、
色校正の後にも変え、結局、下版当日までコピーを変え続けた。
まあそれだけ考え続けたとも言えるけど、ブレ続けただけでもある。

しかも、コピーの文字はフォントそのままではなく、
1文字1文字に細かな棘のようなデザインを施さなければいけないので、
それを毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回修正するデザイナーさんも大変だったはずだ。
本当に迷惑なコピーライターである。

それなのに、𡈽橋さんは何も言わず待ってくれた。
どんなに遅くなっても早くしろとは絶対に言わなかった。
制作会社とも何度も裏で調整してくれていたはずだ。

「何とかするので納得するまで書いてください」

その言葉がどれだけ心強かったか。
新人賞から10年が経ったいまも、感謝しかない。

𡈽橋さん、あの時は本当にありがとうございました。
いまの僕があるのは𡈽橋さんのおかげです。
だからこれからも、コピー講座で思う存分ネタにしてください。

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