謝罪
はじめまして、今年新人賞をいただいた、電通の平田と申します。
まずは、謝罪をさせてください。
先週、会社の後輩である高階君から
「次は、おもしろくてやさしい最高すぎる先輩の平田さんです!」
という最高のバトンを受け取ったのですが、
そんな後輩の期待をガン無視し、月曜から金曜に至るまで一文字も書かずに寝かしてしまいました。
さらにはTCC事務局の方からも、大丈夫そうでしょうかとメールをいただきました。
今こうして、土日に必死でコラムを書いていることを、謝罪いたします。
謝罪ついでに、ひとつ謝罪にまつわる話をさせてください。
皆さんの人生の中で、最も辛かった「謝罪」はなんでしょうか。
僕は、土下座をしたことです。
そしてその相手は、3歳の女の子でした。
僕は学生時代、「キッザニア」という子どもの職業体験施設でアルバイトをしていました。
キッザニアとは、子どもサイズに作られたリアルな街の中で、
消防士や警察官、パン屋さんから総合商社に至るまで、
様々な仕事の制服を着て、子どもたちが職業体験をできるという夢のような施設です。
さらには、働いて得た賃金(キッゾ)を使って、
街のデパートで買い物したり、銀行に貯金をしたりと、子どもがリアルに社会を学ぶことができ、
成長する子どもを親も間近で見られる、という家族で楽しめる大変おすすめな施設になっています。
そんなキッザニアで僕がアルバイトを始めたのは、高校3年生の夏でした。
部活を引退して時間ができた僕は、興味本位でこのアルバイトに応募してみました。
僕は、「鉄道の運転士」という役職に配属されました。
(ちなみに電車に対する知識も情熱も全くありませんでした)
ここでは、鉄道のシミュレーターを使って子どもに運転の体験をしてもらいます。
実際に僕自身が運転士の制服を着て、あたかも本物の運転士かのように振る舞い、
子どもたちに運転技術をレクチャーしていくという業務内容です。
事件が起きたのは、僕がアルバイトを始めてから半年ほど経った時でした。
その日、3歳の女の子が運転士のおしごとを体験しようと来場しました。
鉄道の職業体験は人気で、混雑時は待ち時間を要するのですが、この日もそうでした。
僕「次のおしごとは、40分後になってしまうのだけど、それまでちゃんと待てるかな?」
頷く女の子。
待合室のベンチに座った女の子は、カバンからタブレットを取り出してピコピコとゲームを始めました。
僕「あと30分だからね、もう少し待っててね」
僕「あと20分だからね、ちゃんと待てて偉いね」
僕は、子どもにとっては長いその待ち時間を心配し、女の子に対して定期的に声をかけていました。
その度彼女は、タブレット画面に夢中になりながら、話半分に頷いていました。
そして、それは突然起きました。
「ちょっと!いい加減にしなさいよ!!」
受付から、女性の金切り声が聞こえてきたのです。
その女性は、3歳の女の子の母親でした。
「うちの子がすぐ運転できるって言われたのに、何十分も待たされて泣いてるじゃない!!」
激昂する母親の隣には、いつの間にか泣きじゃくる3歳の女の子の姿がありました。
怒り狂う母親を落ち着かせようと、慌てて対応する運転士担当の同僚。
母「ほら誰よ!間違えて案内した人が誰か、ママに教えてごらん!!」
泣きじゃくる娘に、罪人の告発を求める母親。
静かにスッと指をさす女の子。
その指の先には、僕がいました。
最悪でした。
あんなに親切に時間を教えてあげたじゃないか。
どうしてこんなことに・・・?
慌てて母親の元に向かう僕
僕「あの、お時間は間違いなくお子様にお伝えしたのですが・・・」
母親「ウチの子はそんなこと言ってないわ!」
僕「いえ、何度かお子様に確認もして・・・ゲームをされていたので聞こえなかったのでは・・・」
母親「はぁ?ウチの子が泣いてるのを見てあなた何も思わないの!!?」
僕「そう言われましても・・・」
叫ぶ母親の周りに、何事かと人だかりができ始めました。
人混みの奥で同僚も「もう無理だ、とりあえず謝っとけ」という表情をしています。
水掛け論に埒が開かず、僕は仕方がなく謝罪をすることにしました。
僕「も、申し訳ございませんでした・・・」
母親「アタシに謝ってどうすんのよ!」
僕「え?」
母親「子どもに謝んなさいよ!!」
ここで一つお伝えしておきます。
キッザニアでは、子どもと大人が対等な関係でいられるように、
職員が子どもと話す際は、常に両膝をつき目線を合わせる姿勢になるという規則があります。
僕は女の子の前で、両膝をつき、深々と頭を下げました。
「この度は、申し訳ございませんでした」
両膝をつき、深々と頭を下げると人はどうなるか。
想像してください。
そう。それは、土下座になるのです。
ざわめく人だかり。
その中心で土下座をする青年。
それを立ちながら見つめる3歳の女の子。
館内にはそんな瞬間にも、キッザニアテーマソング『キッザニア・フォーエバー』が虚しく流れ続けていました。
〜〜〜
自由な心で 探して〜
心のままで 遊べる〜
冒険しよう 楽しもう〜
夢はここで 叶えよう〜
キッザニア キッザニアいつまでも〜
キッザニア キッザニアいつまでも〜
(歌詞一部抜粋)
〜〜〜
「いいよ」
しばらくして頭上から声が聞こえました。
見上げるとそこには、既に泣き止んだ女の子が、哀れな者を見るような、そんな憂いの表情をして立っていました。
僕は、許されました。
その後、慌てたマネージャーが現場に到着。母親の怒りをなんとかおさめ、
3歳児に土下座した僕はその日、メンタルケアの観点から退勤時間より早めに帰らされました。
社会というものは、時に、夢や希望だけじゃどうにもならないこともある。
どんな理不尽も不条理も、受け入れて頭を下げないといけない瞬間がある。
仕事ってさ。大人ってさ。そういうもんなんだぜ。
僕はあの日キッザニアで、そんな仕事の本質を子どもたちに伝えることができたと思っています。
おーい、あの日の俺!
俺は今、広告代理店で働いていて、毎日企画にダメ出しされて先輩に謝ってるぜ!
でも、3歳児に比べたら、おじさんに謝るのなんてそんなに苦じゃないぜ!
ということでコラムの執筆が遅くなってしまい、申し訳ございません。
再び遅延した際には、土下座してお詫び申し上げます。
それでは、また次回。