リレーコラムについて

螺旋階段の魔力

小山田彰男

私は螺旋階段が無性に好きだ。取り憑かれていると言ってもいい。

螺旋階段に遭遇したら、ほぼ100%の確率で、手すりに手を置き、足元を見ずに正面を向いて降りていく。
脳内では愛の讃歌(パリ五輪でセリーヌ・ディオンが歌ったあれです)などのバラードが流れ、
周囲に人が居なければ、かなりの音量で口ずさむこともある。

例えば、青山のスキーショップジローの向かいにある編集室の螺旋階段など、かなりお気に入りだ。

イメージしているのは、飛行機のタラップから颯爽と駆け降りる大統領やトム・クルーズやヒュー・ジャックマンではない。
むしろ、冨永愛や全盛期の松坂慶子や往年のマレーネ・ディートリッヒだ。あとは、デイムの称号を持つ女優はほぼ当てはまる。

螺旋階段に相応しいのは、ある種の高慢さ、一度受け止めた視線を絶対に外させないという気概、足元を見ないで降りるというリスクを背負う度胸。それがなくて、「私ごときがこんな登場の仕方ですみません!」みたいな謙虚さを伴う登場は、螺旋階段の無駄遣いだ。
いま、螺旋階段に相応しいのは、椎名林檎くらいだろうか。

とまあ、私は脳の中がとにかく余計なことで忙しい。螺旋階段はその一部だ。
だから、どんなに広告の仕事を一生懸命やっても、部員や局のマネジメントをしても、脳の全部を使うことは不可能だ。

でも、幸いなことに提案や施策が全否定されてもへこたれることがない。
「仕事ではしくじったけど、私には螺旋階段がある!」と思えるからだ。

ゆえに、私はタフだ。すぐに次に取りかかる。15分もあればチャージ完了だ。

高崎卓馬氏がヴィム・ヴェンダーズから、「人は皆、人生に一本、友達の木を持つべきだ」という言葉を授かったという講演を、福岡で拝聴した。ヴィム・ヴェンダーズはベルリンに友達の木を見つけてあるらしい。高崎卓馬氏はこの考え方と実践を、自身とその周りにも広めていこうとしているという。カッコいい話に圧倒された。

確実に友達と思える木があれば、きっとへこたれた自分を受け入れてくれそうだし、「クヨクヨするなよ、ほら、次だよ次に行ってこい、ここで待ってる」と諭されるように感じることだろう。

ただし、私の場合は、その友達の対象が木ではなく、螺旋階段だということだ。
TCCの授賞式が行われる恵比寿のウェスティンホテルの正面玄関、クリスマスツリーが立ってるその奥の、末広がりの階段もかなり友達になりたい階段だ。

あ、でも高崎卓馬は、木と同じくらい螺旋階段が似合いそうだ。これはやばい。
カンヌ映画祭でタキシードを着てた彼の姿を見た人も多いだろう、あれは間違いなく似合う。
頼む、螺旋階段だけは譲って欲しい。

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