リレーコラムについて

猫と薪ストーブ

三島邦彦

寒い朝は、海辺の散歩から始まる。

 

家から15分ほど歩くと到着する、誰も人のいない静かな海辺。

砂浜には無数の石が落ちている。

その中から気になるものを拾う。

その選び方はうまく説明できない。

いい石は、いい。そうとしか言えない。

 

手のひらの中にいくつかの石を持ち、

折り返し地点である岩に腰をかけ、海を眺める。

沖合には鳥が飛んでいる。飽きるまで波の音を聴く。

 

帰りぎわ、手のひらの中で乾いた石を見る。

濡れた石と乾いた石は全く姿を変える。

持って帰りたくなるほどの石は滅多に見つからない。

 

家に帰ると薪ストーブに火をつけて部屋を暖める。

 

庭に面した日の当たる窓際に

敷いたやわらかな毛布には

猫がまどろんでいる。

 

金色の午前の光の中で

ブリティッシュショートヘアの丸顔が

笑っているように見える。

幸せな夢を見ているといいなと思う。

 

 

薪ストーブからパチパチと爆ぜる薪の音を聴きながら

ストーブの天板でお湯を沸かす。

仲の良い喫茶店から譲ってもらった豆を手挽きして、

じっくりとコーヒーを淹れ、書斎に入る。

 

先輩からお祝いにもらったモンブランの万年筆を手に取り、仕事に取り掛かる。

 

ラジオからはとても懐かしい歌が流れている。

 

今日中に終わらせないといけない仕事は一つもない。

 

とても静かで、とても幸せである。

 

 

 

 

そういう暮らしを、私はしたい。

 

だけどどうにもそうならない。

 

 

オフィスビルの一部が住居エリアになった

ペット不可のマンションに住んでいます。

 

同じフロアの半分くらいは会計事務所などに使われているような

殺風景な造りで、家に来た後輩からは、「事務所ですか?」と言われました。

 

照明は限りなく弱く、17時を過ぎると部屋は雰囲気のいいバーのような暗さになる。リモート会議ではいつもまともに顔が映りません。

 

猫も薪ストーブも遠い、灰色のビル。

 

窓から見える空は小さい。

 

 

 

 

でも、諦めない。

 

暇さえあれば猫と薪ストーブのことを考えている。

考えているというより、念じている。

主に、猫と薪ストーブは両立するのだろうか

ということについて考えている。念じている。

 

猫は薪ストーブを怖がるのだろうか。

 

森の中で過ごさなければいけなくなった時、

熊や虎を寄せ付けないように一晩中火を焚いて

絶やさぬようにしている場面を映画で何度も見た。

 

猫と虎が同じだとしたら、猫は火を怖がるだろう。

そんなかわいそうなことはできない。

 

しかし、冷静になって欲しい。猫は虎ではない。

猫は人間の側で暮らすことを選んだことによってここまで進化した。人間の暮らしとともに生きてきた猫は、火を恐れるという本能を失っていてもおかしくない。猫は恐れないかもしれない。

 

ただ、恐れないのはいいことばかりではない。

もしピザを焼いたりするあの天板の部分に肉球を乗せてしてしまったら。

そんなかわいそうなことはできない。

 

 

そんなことばかりを考えている。

 

猫は遠い。薪ストーブも遠い。波の音は聞こえない。

 

 

しかし私はここに誓う。

いつか必ず、猫と薪ストーブのある暮らしを手に入れる。

 

 

ここまで読んだあなたは、途方に暮れているだろう。

自分は一体何を読んでいるのだろうかと。

そして私は、一行あけて、その答えを書く。

 

あなたが読んでいるのは誓いです。

 

私がいつか猫と薪ストーブを手に入れるという誓いです。

 

あなたが証人としていることが、

私と猫と薪ストーブを近づけるのです。

 

ありがとうございます。深く深く、海より深く感謝します。

 

 

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次週の担当は、コピーライターの福宿桃香さんです。

人々は福宿さんのコラムを読むことで清らかな心の尊さを知り、

人間という生き物が神仏に救われる可能性を感じることになるでしょう。

ありがたや。ありがたや。

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