リレーコラムについて

東村山音頭 神様たちの三丁目

熊谷卓彦

空にある星を一つ欲しいと思いませんか? 思わない?
そんなら、君と話をしない。

そんな文学者の言いようがこぼれそうになる時があります。

今の沢田研二さん、かっこいいですよね? 昔だけ?
そんなら…

動画に残された若き日の沢田さんの輝きは凄まじいものがあります。
昨年夏に刊行された写真集(※)にはさらにさらに驚かされました。
絢爛、挑発、非常識。
お茶の間にこんなパフォーマンスが届けられていた時代が信じられません。
糸井さんはどんなお心もちで『TOKIO』を書かれたのでしょうか。
※『JULIE BY TAKEJI HAYAKAWA 早川タケジによる沢田研二』(SLOGAN、2022年)

私が本物の沢田さんに会えたのは1997年、学生の時でした。
エルヴィス・プレスリーを演じた音楽劇。
ドーナツ中毒となった晩年のエルヴィスの体形を
沢田さんはある程度体現されていました。
ジュリーとエルヴィスがオーバーラップします。

劇中のハウンドドッグのかっこよかったこと。
歌詞はうまく聞きとれなかったのですが
「俺は◎×◎×◎×◎×ハウンドドッグ ジャマすんじゃねぇ!」
バリバリのロックンロールに腰を抜かしました。
ジュリーはエルヴィスのように弱ってなんかいない。

ちょうどその頃、あるコピーライターさんとご縁があり、
舞台の感想をメールでうかがいました。
「確かに歌はかっこいい。ジュリ~と黄色い声をあげてもいい。
 でもあのお話はなんなんだ…? 」
といった内容で、言葉の記憶は曖昧で申し訳ありませんが、
愛ある批評にしてコラムのような切れ味鋭い文章に、
さすがだなあと思った記憶は鮮明です。

(その方は植松眞人さん、当時すでにTCC会員でいらっしゃいました。
 そして植松さんにご紹介いただいた山田惠子さんのイラストの力で私は新人賞をいただきました。
 ご縁とは本当にありがたいものです。)

この頃も沢田さんは尋常ではない歌の力と一流のミュージシャンの力で
キレのよいアルバムを作り続けていました。
テレビや過去と距離を置いて美学を貫き通す生き様はかっこよく、
今も変わりません。

志村けんさんが急逝され、沢田さんが役を引き受けられるにあたって
山田洋次監督との間にどのような思いが交わされたのでしょうか。
二人のプライドがぶつかりあうようなドリフのコントを
監督もご覧になっていたのだと思います。

朝一番のお台場、一番大きなスクリーンに
『キネマの神様』の観客は私一人。

コロナ禍に翻弄されながら完成させられた映画には
すでにコロナ禍に苦しむ街の映画館が描かれていて
封切られてもコロナ禍は続きシネコンも異常事態。
忘れられない映画体験でした。
(以下、映画の内容が書かれます。)

沢田さんが演じるのはだめになった人。
いえ、志村さんが演じるだめになった人を
演じているかのようでした。

特に、酔っ払ってソファーに寝っ転がって「かあさん、みず!」と叫ぶシーンは
志村さんといっしょに演技されているかのようではありませんでしたか?

だめになった人にもちょっとした幸福が訪れて、
やはり泥酔しながら皆で歌って踊ります。
歌うのは東村山音頭。
いっちょめ!いっちょめ!と叫ぶではなく、
三丁目までたのしげに。しみじみと。はかなげに。
ここでこの歌で追悼されるとは。

映画が終わると
左後ろにだれかが座っている気配がします。

知らないうちにお客さんがきたのか、
不法録画などしないようスタッフに見守られていたのか、
ふりむけば誰もいない。

志村さんがいっしょにみてくれた。
とでも思いたがった私の脳の錯覚でしょう。

錯覚とはわかっていても、
あの時の人の気配は感覚として生々しく残っています。
命を感じさせるのも、映画の神様。

東村山音頭を歌ってもらうことは監督が思いついたそうです。
三人の神様が出会った三丁目。

できることなら、映画館でみたいものです。

誰かに憑依することも、
コピーライターに求められる資質でしょうから。

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