リレーコラムについて

断り力

小山田彰男

新人の自己紹介って年々上手くなってきてると思いませんか?

30秒バージョンでも3分バージョンでも10分バージョンでもさらりとこなして、なおかつ面白くって、思わず唸ります。
場の人数にも応じてるし、年齢層にも配慮ができる。

いくつのネタを仕込んであるのだろうか。
(リモートでもリアルでもって同じネタでは済まないでしょうからね。)

電通九州のソリューション部門のフロアで私の隣の席に座っている須川さんと古川くんは、
自己紹介能力に加えて、嫌なことを断る能力も発揮してくれるので勉強になる。

須川さんとは、面談でBTSの話になった。ちょうどSUGAが飲酒運転をやらかした頃で、「いやー、ユンギやっちゃいましたねー」と始まり、
BTSの曲の中で何が好き?バラエティに出てるエピソードでどれが好き?そもそもBTSの誰推しなの?
なんて話になって、「いや〜、須川さんとならBTSについて、永遠に話が続くかもしれないなー」と心底思って、須川さんの笑顔を見た。

満面の笑みだが、目が違うメッセージを発している。目は口ほどに物を言うとはこのことだ。
「確かに、BTSの話はそこそこ合うかもしれないが、永遠に話すつもりはない、その時間を作る気もない、よしんば時間を作ったとしてもそれは今夜の夕飯ではない、それわかってるよね?」
屈託のない笑みでそれを相手に察知させるというのは、かなり上級者だ。悪かったよ、須川さん。

続いては古川くんだ。
私が服に関して、「あげ魔」だと言うことは汐留界隈では広く知られていると思うが、九州でもやっている。
一回も袖を通してない、ボール・スミスの黒のベッチンのジャケット。
「いつか痩せたら着るんだ!」とずっと自宅のクローゼットにあった新品を、会社に持っていった。

きっと似合うと思って古川くんに着せてみた。ジャストサイズ、まるでシンデレラ!きゃっほー。
ポール・スミスはジャストサイズで着ないと死刑だから、これはいい!すごくいい!と思った。

ところが古川くんは、「自分はオーバーサイズしか着ない宗教に属しているから、これは無理です。宗派が違います」と受取拒否をされてしまった。実にあっさり端的。宗派が違うとまで言われたら、すごすごとジャケットを仕舞って持ち帰るしかない。

道中、私はブツブツと呟きながら帰った。
「今ファッション業界は、脱オーバーサイズに舵を切ろうとしてるんだからね。
ジャストサイズ最高って時流になった時に、知らないよ、もう、知らないよ」と。

古川くんの迷いゼロの断り力の勝利だ。じゃ、私は敗者なのか?
ジャケットを入れたカバーが風をモロに受けて、凧のようになって歩みを邪魔する。そのせいだろうか、北風が寒い。敗者だ。

断り力に対抗する、断られ力を早急に身につけねばならない。

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