リレーコラムについて

届きませんでした

渡邉洋介

やらなくちゃ、と思って、ずっとそのままにしてしまう
ことってありませんか。
ぼくはよくあります。

そのメールが届いたのは5月下旬。
Iさんからの、結婚パーティーの招待メールでした。
パーティーの日付は7月上旬。
幸せそうなふたりの写真も添えられていました。
ただひとつ問題がありました。パーティーが開催される日、
ぼくには別の予定が入っていて、どうしても参加することが
できませんでした。
ぼくはできるだけ丁寧に、欠席のメールを書き、そして
パーティーには参加できないけれど、贈り物を送りたいので
自宅の住所を教えてくださいと書きました。
住所もすぐに教えてもらえました。

いま思えば、それが間違いの始まりでした。

週末にどこかで買おう。というあいまいな気持ちで
6月になり、7月になり、そして8月が近づいてきました。
Iさんの結婚パーティーは、ずいぶん前に終わりました。
このままだと、個人情報のあつかいに敏感なこの時代に、
ずうずうしく住所を聞いてきただけの人になってしまいます。
そしてもしIさんが新居に引っ越し、なんてことになったら、
また住所を聞かなくてはいけません。恐ろしい事態です。

贈り物。
ささやかなものから、気合いの入ったものまで、
何を贈るかは、その人の自由。自由だからこそ、
贈る人のセンスが問われてしまうというむずかしさ。
いくらぐらいの贈り物を買うか考えるのもむずかしい。

贈り物のよしあしは心がこもっているかどうかの問題。
だから中身はそれほど大きな問題ではない。
本当にそうでしょうか?
たとえばお酒が飲めないひとに、お酒は贈れません。

贈り物は魔物です。
いまでもずっと、心にひっかかっています。
追い詰められるようにして、ある日、思いました。
いつまでたっても贈れないということは、
ずっと、Iさんの結婚を祝福しているということ
ではないだろうか、と。

メールが届いてから2カ月。
ぼくはもう2カ月間も、Iさんが結婚したことを
心の片隅で祝福している。
電車に乗って、メガネの広告を見たときにふと思い出す。
(Iさんはおしゃれなメガネをしている。やべ、贈り物どうしよう)
レストランで、しょうが焼き定食を見つけたときにふと思い出す。
(Iさんとランチしたとき、しょうが焼き定食を食べた。
やべ、贈り物どうしよう)
街を歩いていて、整体院の看板を見たときにふと思い出す。
(Iさんはとても姿勢がいい。やべ、贈り物どうしよう)

一方、あのときもしパーティーに出席していたなら、
その日かぎりでお祝いが済んでしまった気分に
なっていたかもしれない。

この、「ずっと祝福している理論」を
Iさんに伝えるのはむずかしい。
ただの言い訳にしか聞こえない。
いつもはやさしいIさんが、「そうですか」と言ったきり、
口をきいてくれなくなるかもしれない。

早く贈り物を選び、買い、届けて楽になりたい。
でも楽になりたいっていう時点で、
すでにまごころが失われている気がする。
でも早く楽になりたい。
だれかに締め切りをつくってほしい。

この気持ち、わかってくださる方、いませんか?

Iさんはやさしい。贈り物、どうなった?
とはまだ聞いてこない。

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