リレーコラムについて

夢と現実の間をゆく人

角田 奈菜

祖父は、編集者だった。

お葬式の後、
たくさんの原稿がつまれたごちゃごちゃしている会社のデスクを囲んで
仲間と楽しそうに笑っている写真を見つけた時は、
定年を迎えても、書類が積まれた窮屈そうな書斎の机で
彼が仕事をしながら、くつろげていた理由がわかった気がした。

祖父は、私が内定をもらう数週間前に亡くなった。
小さい頃からどんな絵でも褒めてくれて、
デザインを学びたいという私に
美大だけではない選択肢を教えてくれたのも、
あまり知らなかった広告会社の存在を
教えてくれたのも祖父だった。

大学へ進学して、デザインの話をしても
デザイン系の会社ではなく、広告会社を受けてみようと思っている
と話したときも、楽しそうに聞いてくれた。
現役の時に関わった方も多かったようなので、
きっと、広告の世界へ行ったと知ったら
一番喜んでくれた人物に違いない。

本当は、一緒に内定祝いのビールを飲みながら
いったいどんな人たちと仕事をしていたのか話をしたかったけれど
こればっかりはどうしようもない。

亡くなってしばらく経ってから祖父の知人が集まり、
お別れ会を開いてくれた。
集まってくれたおじいさんたちは皆気さくで、
彼らが知る祖父の姿を教えてくれた。

穏やかだが、違反には厳しい。
ある面では淡々とした人だった。
10分たてば忘れる。(たしかに血を引いている)

そこで一番気になったのが、この言葉だった。
「夢と現実の間をゆくような人だったね、彼は。」

おお、それって、
周りからみたら叶わなそうな好きなことを追いかけながら
でも実はちゃっかり現実的に考えていたりして、
いつのまにか実行しちゃっているような人。
すごい褒め言葉だ、とその時思ったのだ。

その方が褒め言葉として使ったは、定かではないのだが。

仕事の話をする祖父は、いつも楽しそうだった。
いろんな経験をして、いろんな挫折を味わったという祖父の夢がなんだったのか、
どんな思いで現実を生きていたのかはわからないが、
この言葉を聞いた時、妙にしっくりきた。

それを、私は帰り道に歩きながらiPhoneにメモしたのを覚えている。

メモをしてから、約3年がたった。
数年経ったって夢なんてものはわからず、目まぐるしい現実にすら
ついていくのにまだ精一杯な私に、
いつかそんな褒め言葉を言ってもらえる日は来るのだろうか。

__

自分のただのメモを、このコラムのネタにするなんて。
勝手に公開しておきながら恥ずかしくもありましたが、
これを機に、書いたきりになっていたメモの整理が少しできました。

次のバトンは、私の突然の依頼を快く引き受けてくださった
同じく今年新人賞を受賞された

ジェイアール東日本企画の、山本絵理香さんにお渡しします。

1週間、ありがとうございました。

 

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