会社を辞めたらしたいこと

下着泥棒を捕まえた市川さんからバトンをいただきました、
９４年入会の井村光明と申します。
実はこの３月に３４年間勤めた会社を辞め
４月からフリーになりました。
下着泥棒の後では何を書いたってパンチに欠けるなぁと思ったのですが、
読者はTCC会員、独立を考えてる方もいらっしゃるはず。
ご参考までに会社を辞める時に起こることでも書いてみることにしました。
１週間どうぞよろしくお願いいたします。

会社を辞める時に起こる最もやっかいなことは、
ご想像の範囲内とは思いますが
「辞めるのやめちゃおうかなぁ」
と繰り返し繰り返し思うこと、やっぱりこれでした。
僕の場合ほんの１年前までは
会社に不満もないし、
辞めたところで今まで同様CMを作るだけだし、
定年までいて退職金を満額もらった方がいいなぁと思っていました。
会社を辞めてまでやりたいことがないことが、
繰り返し繰り返しになる原因かもしれません。

が、今まで同様CMを作るだけだし、と思った時に、
今まで同様のこれからなのなら、せめて
新しい人とでも出会わないことには
これからが本当に今まで同様になっちゃうなぁ、と思った。
去年の１２月のことでした。

すると、
「甘い！そんなことじゃ絶対にうまくいかない。
辞めるのやめたほうがいい！」
とピシャリ。
仲の良い同年代フリー５人との忘年会でのこと。
自分としては真剣に考え勇気を出したつもりだったのですが、５人が５人とも大反対。
「俺たちにはできたけど、イムリン（僕のあだ名）には無理」
とまで言うのです。
昔は「早くイムも辞めなよ〜」と煽ってきてたくせに・・・、さすがに何様だよとムカッ。
しかし、思えば煽ってくれていたのも１０年以上前。
２０年以上フリーを続け、とりまく状況が悪くなってきているのを身に沁みて感じている
彼らの親心なわけです。
「辞めてやりたいことがあるならともかく、
何もないなら失敗した時必ず後悔するよ」

確かに・・・、
そりゃ辞めれば新しい出会いはある。今はマッチングアプリだってある。
「新しい人とでも出会わないことには」なんて理由になってないということか・・・。
恋愛相談のように反対されると燃え上がるようなことは全くなく、
「考え直してみるよ」とタクシーに乗ったのでした。

が、しかし、
次に５人と会う時に
「辞めるのやめることにしたよ。へへへ」
と言うのかと想像すると、ただただカッコ悪く思うんですよね。
辞める辞めないを考えていたつもりが、いつしか言える言えないにすり替わってグルグル回る。
自分は「辞めるのやめる」と言えないから辞めようとしているように思えてきて、
一歩も進めなくなるわけです。
「辞めるのやめた」とは言わずにしれっと定年までいようかなぁ・・・。
しかしコピーライターの場合、
会社を辞めてやりたいことって何か特別にあるのだろうか、
そんなことを悶々と悩むばかりでした。

そんな年末、絶対に話を聞いておきたかったフリーの方と会えることになりました。
お忙しい方なので、取れたアポはド年末、
仕事納めの１２月２７日金曜日のお昼１４時。
ランチがてらかなと思っていました。
すると、当日指定された場所は、
帝国ホテルのオールドインペリアルバーだったのです。

夜ですら入ったことがないのに、そもそもこんな時間に開いているのか。
行くと、外光で明るいまっ昼間の廊下の先にダークブラウンの重厚な空間が広がっている。
昨日の夜がまだ残っているのか、今夜がすでに来ているのか、
日本時間と切り離されたようなカウンターにその方はいました。
時間を作るというが、文字通り僕だけの時間を作り出してくれたみたいじゃないか。
そして、どうしてここにしたの？と聞くと、
「井村さんの将来は、昼間のカフェなんかでできる話じゃないですよ」
ズッキューン。
こんなマジック、隣に座っているのが秋山晶さんならまだ分かる。
しかし今隣にいるのは１０歳年下の女性フリーコピーライター。
まるで退職からプロポーズされてるみたいだ！
その瞬間思ったのです。
これがしたい！
こういうことしたい！
会社を辞めたら、会社を辞める相談に来た後輩をここに連れてきたい！
会社を辞めてやりたいことができちゃったのです。

４時間後バーを出ると、外界もやっと追いついたように夜。
昼間にバーに来ると時間はこう流れるのか。あの５人のように厳しい話をすることになるとしても、
やっぱり昼間のここだな！と頭の中はそればかり。
やりたいことができると人は強いんですね。
そのまま辞めるのをやめるのをやめ、年明けに退職願を出したのでした。

どうもフォントが内容と合ってない気がしますがw、
金曜までお付き合いいただけると幸いです。