リレーコラムについて

クリエイティブ価値観のはざま

こやま淳子

先々週はカンヌに行っていました。
正式にはカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルという世界最大の広告祭です。
カンヌに行くのは20年ぶり、前回行ったのが2002年だったと思うので、正確には22年ぶりです。

いま私のまわりにいる方はあまり想像がつかないかもしれませんが、
当時の私は、TBWA \JAPAN(博報堂と提携する前のTBWA日本支社)
という外資系広告会社に所属していたこともあり、
カンヌや海外の広告が大好きな人間でした。
賞を取ったものだけでなく、
「アーカイブ(海外のグラフィックをまとめた雑誌)」や
「ショッツ(海外のムービーをまとめたビデオ)」などを隅々まで見て
これはどういう意味なんだろう?と研究・分析することに日々時間を費やしていました。

当時のTBWAは、
ボルボの安全ピンの広告でカンヌグランプリをとった川瀬稔氏が社長だったし、
スーパーニッカでシルバーを取った内田しんじ氏(現電通)が局長だったし、
川瀬氏の後の社長ジョン・メリフィールド氏率いるアディダスチームは、
空中サッカーという企画で数々の海外賞を総なめしていました。
そんな環境にいたので、カンヌを目指すのは当たり前だし、
目指さない奴はダメな奴、という雰囲気でした。
ただ現実的には、目の前の仕事ではそんなこと求められていないし、
もちろん実力不足の問題もあって、
なかなか取れる気がしないなあという感じではありましたが。

博報堂に入って間もない頃、
コピーライターの先輩にカンヌの話をふると、その方は
「ああ、でもカンヌって、コピーライター関係ないじゃん」
と、あっさり言いました。えっ。

私は絶句しました。
それまでいた環境では、そんなこと言うことも、
いや思うことすら許されないという感じだったからです。

コピーライターはコピーを書くだけの人ではなく、
まずはアートディレクターと一緒にプランニングを考える人でした。
もちろんそこにどんなタグラインを置くかも考えますが、
それは全体のなかでは30%くらいの仕事でした。

外資系にいたときは最初にコピーを持っていくと逆に怒られて、
もっと大きなディレクションやアイデアの種が出るまでみんなで議論したりしましたが、
博報堂に入ってからは「なんで早くコピー持ってこないんだ」と怒られました。
え、だってまだディレクションも出ていないのに?

どちらがいいとか悪いとかではなく、この極端に違うカルチャーのなかで、
まだ自分自身の実力やスタイルがなかった私は、
時にぐちゃぐちゃに精神を崩壊させたりしながら、
そのうち「コピーを書くことが大好きな自分」と出会いました。
海外っぽい企画を考えるのも好きだったけど、
そういえば私は言葉が好きだからコピーライターになったんだったなあ。
それをやるには、やっぱり日本の会社の方が楽しいなあと。

その後、博報堂も「360度クリエイティブ」が説かれるようになっていき、
コピーだけじゃなくてアイデアを、これまでのメディア頼りの企画だけではなく
もっと多角的に考えよう、という風潮になっていきました。

でもそんなとき「ゆうちょ銀行」のCMで、
岩崎俊一さん&オカキンさんのコピー中心のキャンペーンが大量に流れて
(「ひとりを愛する日本へ」というコピーだったと思います)
それは博報堂のキャンペーンだったのですが、
CMプランナーの先輩に「うちの社内にはああいうコピー書けるコピーライターいないよね」
と言われたりしました。

っていうか、私たちが360度アイデアというのをウンウン考えていた間に、
そういう楽しい仕事は外部のコピーうまい人に行っちゃってたんだ、
と思ったりもしましたし、
「やっぱり中途半端な企画より、いいコピー書ける方がかっこいいなあ」
と思ったりもしました。
そんな風に、極端な価値観のなかを右往左往していたのが、私のクリエイティブ思春期(※)でした。

いま、その頃からまた時代は変わりましたが、
若いコピーライターを見ていると、
コピーを書けるようになるべきか、いまっぽい企画を出すべきか、
という価値観のはざまで悩んでいる人も、相変わらず多いように思います。
「こやまさんは昭和のコピーライターだからそういう悩みとは無縁」に見えてるかもしれないけれど、
実は私も同じ悩みのなかにいたんだよ。うん。なんでも聞いて。

今回のカンヌ行きのきっかけは、
GOの三浦崇宏氏に「こやまさんもカンヌ行きません?」と軽く誘われたことでしたが、
バカみたいに高い登録料や渡航費を知ってもやっぱり行こうと思ったのは、

あのときカンヌに夢中になった自分は、なんだったんだろう?

ということを考えたかったからかもしれません。

で、結局今回カンヌに行ってどうだったか? という話を書こうと思っていたのですが、
だいぶ長くなってしまったので今日はこの辺りで。
そして明日はまったく違う話を書くかもしれません。笑

(※「思春期」というのは比喩表現で実際の年齢とはもちろん違います。念のため)

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