エレクトーンだ!
2025年に会員になったばかりの僕は
TCCではまぎれもなく新人です。
けれど、会社でもいつまで経っても変わらず
新人相当の評価なのは、とても深刻な問題です。
そんな新人が、思いがけず
今年の新入社員を指導することになりました。
伊藤さんはとても明るい性格の女性で、
新人の僕が語るコピーの書き方にも
目を輝かせ熱心に耳を傾けてくれるので
ついつい、いろんな話をしてしまいます。
そんな伊藤さんは大学まで
WindowsのPCを使っていたらしく
会社から支給されたMacBookを
自慢げに見せてきました。
真新しいMacBookを小脇に抱えて
「こうやって社内を歩くのに憧れてたんです!」
と満面の笑みではしゃいでいました。
「クリエーターっぽいでしょ」と。
ただ、憧れと現実は大きく異なり、
彼女は不慣れなMacの操作に
日々苦戦することになります。
カタカナはどうやって打つのか?
なぜバックスペースしかないのか?
全画面の終了のさせ方は?
Macユーザーにとっては当たり前の操作も
伊藤さんにとっては初めてのことばかり。
それでも憧れのクリエイターになるため
困惑しながらもがんばる伊藤さんに、
僕は毎日、勇気と希望と敬意とを感じています。
そんなある日、一緒に担当している仕事のコピー原稿を
Microsoft Officeのパワーポイントで仕上げたところで
「保存ってどこでしたっけ?」と彼女が質問をしてきました。
そんなのWindowsもMacも
おんなじじゃないかと思いつつ
「そこのフロッピーのマークですよ」
と同じ新人として丁寧に伝えました。
すると彼女は不可解な表情を浮かべて
「フロッピーってなんですか?」と返したのです。
きた。
これまで仲良く仕事をしていた僕らに、
世代間の隔たりが顔をみせた瞬間でした。
団塊とかゆとりとかZとか。
ふだんは気にしないでいるつもりでも、
世代による定義づけは
「世代感覚」としてゆっくりと確実に僕らの意識に浸潤し、
やがて世代間の断絶を生みます。
フロッピーディスクの存在も、
そんな世代感覚をあらわにするツールのひとつです。
「今の若い奴らはフロッピーも知らないんだよ」
という言説をネットで見聞きした覚えもあります。
僕はいつも思うのですが、
人によって知っているものと
知らないものがあるのは当然です。
だからこそ知っている/知らないを主題にするのではなく、
せっかく同じ時代を生きている人間同士なのだから
互いの知識を共有しあう姿勢、態度こそが
人類の豊かさにつながるのではないかとつよく思うのです。
「同世代より、同時代。」
僕はフロッピーディスクを知っているし使ったこともある。
けれど、伊藤さんは知らない。
僕はその差をすこしずつ埋めることが
同時代を生きる人類の力になると信じ、
Googleでフロッピーディスクを検索しました。
画像とパワーポイントの保存マークを見比べて
「ほら、一緒でしょ」と指差した瞬間。
伊藤さんはハッと目を見開いて
元気あふれる大きな声でこう言ったのです。
エレクトーンだ!
えっ? と僕もすこし大きな声を出していました。
詳しく話を聞くと、
彼女は小さい頃にエレクトーンを習っていて、
メロディやリズムなどのレジストレーション(設定情報)の管理に
今もフロッピーが使われているというのです。
僕は、感動のあまり言葉に詰まってしまいました。
それまで、僕にとってのフロッピーは
世代感覚のバイアスをいたずらに助長するだけのもの。
フロッピーなんてものがある(あった)おかげで
違う世代が嘲笑しあうんだと思っていました。
けれど、世代感覚のバイアスは
むしろ僕の病理だったのです。
フロッピーは今もけなげに、
エレクトーンを習う子どもたちに
音楽の楽しみを伝える大切な役割を果たしていました。
善きもの、フロッピー。
フロッピーとエレクトーン、そして伊藤さんの存在が、
「同世代より、同時代。」の思想を
鮮やかに思い出させてくれました。
そして、そんな大切なことさえ忘れていた僕は、
まだまだ新人なのだとあらためて自覚したのでした。
ということで、僕のコラムは終わりです。
一週間ありがとうございました。
来週からは僕にとってのふしぎな存在、
井村光明さんのご登場です。
コピー年鑑2025の副審査委員長も務められるなど
ご多忙のなか、無理を言って引き受けていただきました。
やった!うれしい!
どうぞ井村さんをよろしくおねがいします。
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