リレーコラムについて

もちもちしたもの

松元篤史

私にとってあんみつは「ぎゅうひ」を食べる手段でした。
デパートのお好み食堂、初めて食べるあんみつの
その器の中で出会ったみどりとピンクの柔らかい欠片。
私は、その鮮やかな色に目を奪われ、
やけにもちもちとしたその食感に夢中になりました。
それが「ぎゅうひ」という名であることを知った私は、
あくまでも「ぎゅうひ」を食べる手段として
あんみつを愛するようになったのです。

音だけで記憶していた「ぎゅうひ」という名が
漢字で「牛皮」と記されることを知ったのは高校生の頃。
牛の皮。それじゃあ、まるで大人が履く靴ではないか、と落胆し、
やがて私は「ぎゅうひ」と距離を置くようになりました。
「ぎゅうひ」は平安時代に唐から伝わったもので、
牛を食べる習慣のなかったこの国では「牛皮」という字を忌み嫌い、
やがて「求肥」と表記するようになったといいます。
高校生の私は、不幸にも「牛皮」の方だけを知ってしまったのです。

愛する「ぎゅうひ」を失った私が
次に目をつけたのは、ベーグルという食べ物です。
ドーナツみたいな陽気なカタチをしているのにずっしりと重くて、
パンにはない圧倒的なもちもち感をくれるベーグル。
ニューヨークで大流行!みたいな雰囲気にも安易に流されて、
やがて私はベーグルに傾倒していきました。
しかし、すべてのベーグルが私を満足させてくれるわけではありませんでした。
ベーグルは生地に卵や牛乳を使いません。焼く前に生地を茹でます。
この掟を守らないベーグルは、ベーグルではありません。
ベーグルのふりをするパンたちに抗議するため、
私はベーグルのもとを離れました。

そうしてたどり着いたのが、うどんです。
子どもの頃から近くにいたのに、数えきれないほど食べてきたのに、
その力強いもちもち感を、私はすっかり見落としていました。
いま、私はうどんに夢中です。讃岐うどんだけではなく、
水沢うどんや稲庭うどんにも手を出し、伊勢うどんには運命を感じ、
ひもかわうどんにときどき会いに行き、耳うどんに思いを馳せる。
うどん初心者ですから、まだ出会ったことのないうどんが
数えきれないほどあるはずでしょう。

これからしばらくは、
うどんともちもちしようと思います。

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