TCC会報出張所

《書籍紹介》歌集『死と不死』/柿本希久 著 

歌集『死と不死』

柿本希久

出版社 : 鶫書房

定価 : 2,750円(税込)

出版日 : 2021/9/13

 

 

 

歌人であり、陶芸家でもあるTCC会員の作者柿本照夫(筆名柿本希久)は、
長くコピーライター・クリエイティブディレクターとして活躍し、
自らを一筆狼と名乗っています。
その狼による第二歌集が”死と不死”です。
作者と同じ団塊の世代で、
いつ、お迎えが来ても不思議ではない我が身にしてみれば
“君には、覚悟ができているのか?”“遠くはない死と向き合って生きているか!”
と牙をキラッとさせながら叱咤もしくは激励等々過激な歌が詠まれているのだろう
と想像しながら頁を繰りました。

ところがです。
「薪きれば鋸屑(のこくづ)こぼれ年輪の涙のやうに時は消えゆく」
年輪をコツコツ刻んで刻んでも、散るのは一瞬。
儚いけれど、鋸屑が宙に散る星屑に見えてきます。スローモーションで。
なんだかロマンチックです。

「首締めし戦士のネクタイ百本をお役ごめんに 黒のみ残す」
終活の一つとしての断捨離。けれど、エイッと潔く全てを断ち切りません。断ち切れません。
自分は生き残る、まだまだ死なないのだという微かな欲と任が感じられます。
その決意が身に染みます。

「死ぬ日まで人は笑える生きものと思ひ至りて遺言を書く」
死と向き合うことは、生を探ることと、この歳になってようやく実感しています。
終点まで途中下車禁止。
死後を見つめながら笑って愉しむのが残りの生なのだという思いが募ります。

上の三首は、歌集のほんの一部です。
どうやら、作者の牙にはチョコレイトがまぶしてあって、心地よいイタミを感じます。
時には陶芸家として、時には歌人として、
最期の最期まで、狼は、その牙を磨き続けていくのでしょう。楽しみにしています。

(TCC会員 源中 冬彦)

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●著者より●

第一歌集「ケモノ道」から4年半。短歌を始めて10年が経ちます。
自らの老いも急迫し、最晩年には不慮の出来事や陥穽が待ち構えていることもあり、思い切って出版を決意しました。次々に友人、知人と永訣し、死をいい意味で身近に感じることができるようになっています。
一方、永遠の生をめざす思考実験「水槽の脳」のような不死への流れもあります。
アウシュビッツ紀行や作陶生活に過ぎるさまざまな死生観を詠んだ、五百余首を編年体でまとめた歌集です。
死に向かう老境にも、しばしばきらめく詩情があります。

 

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