TCC会報出張所

《書籍紹介》面白いって何なんすか!?問題――センスは「考え方」より「選び方」で身につく/井村 光明 著

『面白いって何なんすか!?問題――センスは「考え方」より「選び方」で身につく』

井村 光明 著

出版社:ダイヤモンド社

発行日:2020年9月16日

定価:1,650円(税込)

 

 

面白いって、捨てたもんじゃない。

どうも、川見航太です。

僕が井村光明さんに出会ったのは、2015年。
TCC新人賞をもらったのは2016年のこと。

そして、井村さん初の著書
『面白いって何なんすか!?問題』の帯には、
「本書の教えを受けた生徒は新人賞を受賞!」とある。

つまり、その生徒が僕だ。

本書の第5章
“センスは「考え方」より「選び方」で身につく”は、
広告学校「谷山クラス」最終課題での
井村さんと僕の会話が多くを占めている。

だから今年の年末には、きっと僕の銀行口座にも
億を超える印税の数割が振り込まれるに違いない。

もし、この新書紹介のページを開いたあなたが
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2019年の晩秋。
僕は、道玄坂のラブホテル街近くの小料理屋にいた。

カウンターにはもう待ち合わせの相手が座っている。
額と脇に一気に冷や汗が吹き出す。

なぜか井村さんと街中で待ち合わせをすると、
いつも緊張のあまり時間に少し遅刻してしまう。
この日は酔ってしまわないよう、高めのヘパリーゼを飲んで
息を整えていて遅れてしまった。

井村さんは、いつもユーモラスかつ軽妙に語り、
生徒たちのコピーや企画を見る目は、とても優しい。
知ってる人は知っている通り、
威圧感からはほど遠い先生だ。

しかし、特に谷山クラスの最終課題で
井村さんに担当してもらった生徒は分かるのだが、
企画はなかなか通らない。

最終課題は、「東急ハンズの新生活」。
そのときの生徒は40人ぐらい。
講師の採点で選ばれた上位数名が
実際に東急ハンズさんへのプレゼンを許される。

言ってしまえば、40社(者)競合。
当たり前のことだが、選ばれる案は一つだ。

その「一つ」になるために、みんな必死だった。

井村さんは、それに徹底的に応えてくれた。
「面白いって何なんすか!?」と
生徒に逆ギレされながらも。

今、ふと思う。

井村さんと会うときに緊張するのは、
井村さん自身が怖いからではない。

「あのときぐらい、何とかなりたいと
必死な君はまだいるのかい?」

「それとも、なんとなくラクになって
誰かのことを評論してたりするのかい?」

そういう自分の中の焦りの声が、
井村さんというイメージに投影されて
自分自身を焦がすのだ。

道玄坂の小料理屋のカウンターに
生ビールが二つ運ばれて、乾杯する。

炙りシメ鯖に、バーナーの火が揺れる。
遅刻してきたのに、逆に労われる。

プレゼンから4年、
気持ちは変わらないけど、まぁいい歳だ。
あのときは、まだ平成だった。

まさか、本になるとは思わなかった。

「お前は、なんか俺に似てるよ。
あれは、俺にとってもターニングポイントだった」

ビールからレモンサワーへ。
レモンサワーから芋焼酎へ。

思えば、僕が広告の仕事を目指したときから
井村光明さんはずっとスターだ。

しかし、スターも鬼才もレモンサワーを飲む。
そういうことだ。

面白くなりたい、
面白いものをつくりたいと、
僕らは必死でもがいたり
諦めかけたり
意気消沈したり
意地になったり
逆ギレしたりしていた。

涙だって、流した。

そして、道玄坂のレモンサワーは
流れるように喉を滑っていった。

🍋🍋🍋🍋🍋🍋

井村さんは、
『面白いって何なんすか!?問題』の
僕が出ている部分をチェックするかい?
と言ってくれた。

チェックなんかしませんよ、と言えたことが
僕は何より嬉しかった。

選ばれる、ということに
必死だったあのとき。

コピー百本ノックの中で
僕が執拗に多めに書いた「ダンボール」を
井村さんに選んでもらえなければ、
あの道玄坂の夜のレモンサワーはなかった。

ダンボールは、
最終講義のプレゼンで選ばれ、
東急ハンズさんへのプレゼンで選ばれ、
そして、初見の人にも分かりやすく
ブラッシュアップして掲出され、
TCC新人賞に選ばれた。

考えてみると、
広告クリエイティブというものが
目指しているのは
「選ばれる面白さ」なのだ。

それはたぶん、
CMやポスターでも、
賞レースでも人選でも同じだ。

だから、つらい。
だから、せつない。
だから、おもしろい。

井村さんは、
そういうことを教えてくれた。

面白いって、必要なんすか?
面白いって、誰のためなんすか?
面白いって、食べられるんすか?

2020年のいま、
谷山クラスの生徒さんたちは
リモートで授業を受けているらしい。

授業後の飲み会は、
表参道の「中西」ではなく
オンラインだったりするのだろうか。

いま、なんとなく彼らのことが気になる。

もし会えることがあったら、
『面白いって何なんすか!?問題』を肴に
一緒にクダを巻いたりしたいものだ。

もう令和だから、朝まではキツいけれど。

♪「平成」折坂悠太

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