TCC会報出張所

《対談》HCC賞第30回記念 仲畑貴志氏×髙崎卓馬氏 スペシャルトークショー

2017年4月15日に開催された第30回北陸コピーライターズクラブ(HCC)賞審査会にて、特別審査員として招待された仲畑貴志さん、スペシャルゲストの髙崎卓馬さんによる対談が行われました。対談の内容は「2017 HCC コピー年鑑(北陸コピーライターズクラブ年鑑) 」に採録されていますが、TCC会員をはじめ広く皆様に読んでもらいたいということで、TCC会報に転載させていただくことになりました。ぜひ、ご一読ください!

 

HCC賞第30回記念
仲畑貴志氏×髙崎卓馬氏
スペシャルトークショー

「神様の言葉」

第30回という節目を迎えた今回。特別審査員にはコピーライターの神様・仲畑貴志氏をお招きしました。仲畑氏にはこれまで、TOCC(のちのHCC)賞第1回、そしてTOCC創立20周年となる第14回に特別審査員を務めていただいております。HCCの歴史に仲畑氏あり。記念すべき第30回は、仲畑氏を敬愛する髙崎卓馬氏をモデレーターに迎え、「神様の言葉」を引き出していただきました。

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髙崎
去年、HCCに呼んでいただいて。そのとき30周年という節目だったら、仲畑さんを呼んでも来てもらえるんじゃないかってふと思って。僕もあらためてお話を伺いたかったというのがありますが、そういう経緯があったので責任をもって仲畑さんを捕獲してきました。僕にとってはやっぱり神様で。東京で会うときはだいたい照れてお酒飲んでしまうのでみんなの前で思いっきり、僕の好きな仲畑さんをほじくれたらと。

仲畑
ほじくってください。

髙崎
正直に言うと、電通に入るまで広告のことをちゃんと考えたことはありませんでした。で、いざ配属されてどうしたもんかと悩んだときにいろんなものを読みあさって。そこで仲畑さんの本に出会いました。大きな本にぎっしり仲畑さんの言葉がつまってて。ああ、おもしろい。ああ、こういう世界に自分は入ったのか。こりゃすごいって。
だから初期は常に真似をしてました。できないんですけど。必死に真似したから、なんか生まれたときのインプリンティングみたいなもので。あ、そうだ。最初に脱線させてください。みなさんにぜひどこかで観ていただきたいんですが、NHKに「課外授業ようこそ先輩」という番組があります。いろんな人たちが母校の子どもたちに自分の仕事を教えるという番組なんですが、そこに先日仲畑さんが出られてて。すごい衝撃を受けました。仲畑さん、覚えていらっしゃいますよね(笑)。

仲畑
いやー、忘れたいことのほうが多いからね(笑)。

髙崎
腐ったトマトを子どもたちに見せて、それをなんとか褒めるように言うんです。子どもたちは「生き物がいっぱい中にいそう」とか「動物のエサになる」とか「眠気も覚ますニオイ」とか「バツゲーム専用のトマト」とか色々言い出して。それから

 

なんで腐ったトマトがいいのか。

 

という話になって。「腐ってる」って言うとそこまでなんだけど、短所を長所に変えるというか、視点を変えるだけでここまでモノの価値が変わるという。それこそコピーだなあと思って。いい話ですよね。最初に忘れない様に脱線させてもらいました。
では、そんな仲畑さんが書いた僕の大好きなコピーたちです。

まっすぐの人間だから、よくぶつかる。
異常も、日々続くと、正常になる。
昨日は、何時間生きていましたか。
なんだ、ぜんぶ人間のせいじゃないか。
愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。
「人間は、全員疲れているのだ」と仮定する。
生きるが勝ちだよ、だいじょうぶ。
タコなのよ、タコ。タコが言うのよ。
おしりだって、洗ってほしい。
にんげん、岩田のつもりです。
ケンカはやめた。だから、もう負けない。
目の付けどころがシャープでしょ。

髙崎
これは僕が影響を受けてる順、かもしれません。

仲畑
答えられるかどうかはわかんないけどさ。ただ逆にこのチョイスで髙崎がわかるよね。モノより人の方に行ってるじゃない。だから、そういう作家なんだよね。こういうことが成立するのは、モノの機能がオーバーフローしてほぼ差別化ができない時代に入ったからだね。それがだいたい60年代から70年代以前の広告は、いいか悪いかを言ってた。ところがどこの扇風機もよく回るし、どこの冷蔵庫もよく冷えるようになってきたときに、物理的な特性ではぜんぜん伝わらない。いいか悪いかではなく、好きか嫌いかで購買する時代に変わった。おそらく、まだモノの機能が力を持っている時代に、僕がこんなコピー出したらクビになっただろうね。

髙崎
モノのことを言えと必ず言われますね。

仲畑
モノのことを言え。物理的特性を言え。係数を言えと言われる。そういう時代を経て、好きになってもらうことが重要な時代になった。それを今はブランディングだとか、いろんな言い方に変えてるけど、本質的には一緒。その変化があったから、僕みたいなコピーライターが飯を食える時代になった。先輩は大変だったね。モノにしがみついて総倒れになった。もちろんモノをうまく言う表現もあるんだけどね。心とか人間のことを言う表現になってどういうことが起こったかというと、映画や小説と同じになったわけ。映画や小説はお金払って時間を使ってドキドキしたり泣いたりする。コピーが、そういう表現形式に近づいた。だからコピーブームなんてことも起こった。

機能だけを語っていたら
コピーブームなんて起こらないよね。

髙崎
そこに鉱脈があると気付いた瞬間ってありますか?もともと仲畑さんがそういうタイプで、仕事をしているうちに自分の引き出しにはまったのか、ここにあるぞって思ってやったのか。

仲畑
そんなに論理的ではなかったね。相手がうなずいてくれる。それは実感と共感を伴っているからだけど、それを突き詰めていったらこうなったってとこかな。

髙崎
相手っていうのは見ている人ですよね?クライアントじゃなくて。

仲畑
そう。それはもう受け手だけ。顧客、消費者、生活者、ターゲット。

髙崎
クライアントはわかってくれるんですか?

仲畑
それは個体差がある。なんとも言えないね。

髙崎
世に出したあとに響いて、クライアントがそういうことかって関係ができていくとか?

仲畑
いろんなケースがある。ほんとは社長うなずいてないけど、プロが言うことだから信用して出すしかない。出したらいいリアクションがあった。で、やっぱりよかったんだと思う。そういうことは結構ある。これはプランニングの話だけど、セゾンカードの永久不滅ポイントでおじいちゃんが大車輪やってるのあったでしょ?おじいちゃんがステテコを履いてるわけ。でも、社長はステテコ嫌らしいのよ。スーツでネクタイ締めてやってくれって。僕は抵抗した。絶対だめ。それはチャーミングじゃない。で、結局ステテコでやって、爆発した。そういうことがあって、その後社長と飲んだときに「おれはもうこれからなんにも言わない。仲畑さんの好きにやってくれ」と言われた。立派な方です。自らの非を認めるなんて。社会的地位が高いほどプライドが邪魔して言えない。その方は、心でうなずいてなかったけど、プロはプロだって任せた。こういうやりがいのあるケースもある。だけど、絶対スーツとネクタイって言い張る方が多いでしょう。これはもうしょうがない。クライアントにはかなわないから。その中で最善を尽くすしかない。

髙崎
やらない、降りるっていうのはありますか?

仲畑
今まったくないよ。クライアントの言うこと聞きまくってるよ(笑)。

髙崎
でも、昔はありますよね?

仲畑
なんとも言えないね。でも、なんであんなにツッパってたのかなって思う、若いころね。いや、ツッパっちゃだめってんじゃないのよ。そういう季節があってもいい。

髙崎
季節ですか?

仲畑
季節なんだよ、やっぱり。成長過程に必要なこと。「ケンカはやめた。だから、もう負けない。」とか、「まっすぐの人間だから、よくぶつかる。」とか、生理的に書いたコピーで(笑)。いましめだね。だけど、若さには、美しさを伴ういさぎよさがあって、一直線にクライアントとケンカするってことは起こるし、それはそれで快いフォームをもっている。傷つきもするしね。でも、クライアントの言い分を聞きまくっても、売れる広告をつくることはできる、60歳を超えてから気がついた。ほぼ40年かかった。遅いね。

髙崎
若いころにケンカするっていうのは、自分の思い描く通りにいかないから、ってことではないんですよね?

仲畑
感じる心を持たないやつとは仕事をしたくねえってことだな。クライアントの言うことはいっくらでも聞くけど、

いちばん大事なところは
絶対に触らせない。

そこまで媚びて表現すると、まったく伝わらないうんこになってしまうので。そこは死守しないと。でも、その大事なとこって、意外と向こうもわかってるよ。

髙崎
僕もよくケンカしちゃってました。そういう季節があって。ディテールはいいんですけど、それを許すと出来上がったときに絶対に腐る、と思う瞬間がときどきあって。たぶんちょっと小心者なんです。思っている通りにつくってうまくいくかはわからないけど、ちゃんと悩んで覚悟をつくるのが大事だと思っていて。いろんな人が厨房に入ってきてみんなで包丁触りはじめると、絶対にその舵取りができなくなるから。味の責任をとりたくてケンカしちゃうんですね、きっと。

仲畑
もちろんそうだね。それとやっぱり、ある程度いいコピーライターと言われる人って、みんなデリケートで小心ですよ。でなかったら感知できないじゃん。

相手を、
どこまで思い至ることができるか。

僕はそれがすべてだと思うよ。コピーライターの資質として、もっとも重要だと思う。これは営業でもなんでも一緒で、これができる人はなんだってできる。

髙崎
仲畑さんは具体的な誰かに向けてコピーを考えることはあるんですか?

仲畑
それはないね。オリエンテーションで示されてるターゲットがあるけど、シュートしない。たしかに所定の的にシュートするのはかっこいいんだけど、経験上、クライアントの言ってるターゲットまわりにまだマーケットがあると知ってるわけ。たとえば疲れてるお父さんに売るエナジードリンクを、いちばん疲れているであろう40代男性に売るようなターゲット論が出てくるけど、実はそのまわりの女性が20%くらい買ってくれたりする。そういう経験をいっぱいしてきたから。ひとつの標的にスコッとシュートする表現はプロっぽいし、切っ先の鋭い強いコピーにはなるんだけど、僕はそれだと不安で。

僕のコピー手法は
狙撃型ではなく、かいぼり型。

<下からがーっと全部掬っちゃうやり方。打ち震えるようなひとつの心を狙うんじゃなくて、「だってそうじゃん」っていう実感と共感を掬い取りたいと思う。この手法には失敗がない。結局、「まっすぐの人間だから、よくぶつかる。」って当たり前だろコノヤローみたいなもんじゃない。「異常も、日々続くと、正常になる。」も当たり前。みんな、「だってそうじゃん」ってものばっかりなんだよ。一等賞の広告表現は、脳科学の茂木健一郎が言ってる「アハ効果」と一緒で、受け手が言語化する前の思いをコピーで触って、「ああ、そうだ」って思わせる。これはすごい勢いが出るね。むずかしいことだけど。

髙崎
そういうのって古くならないですよね。普遍に近づく。心って、江戸時代の人も大きく変わらないと思うんです。人は人を好きになるし、嫌いになるし。やっぱり、すごくいいなと思ったものって、今見てもいいなと思うんですよね。

仲畑
最近、こういう質問受けるの。「ネットができて、メディア特性が変わって、コピーも変わってくから大変ですね」って。ぜんぜん怖くないね。メディアがどんなに変わろうが、人間同じところで泣いてるし、同じところで笑ってる。いちばん根っこのところってほとんどブレがない。それを信用してちゃんと人間を見ていれば、メディアがどう変わろうがなんにも怖くない。

髙崎
昔の歌聞いてもいいなって思うし、昔の映画見てもいいなって思うし。時代を超えてやると思って書く必要はないけど、いいのができるとそうなっていくのかなと思いますね。「昨日は、何時間生きていましたか。」とか僕すごい好きで。こういうのはどんな角度から生まれてくるんですか?

仲畑
これはステージがいいよね。パルコという懐の大きなクライアントなので、もうなにをやってもいい。パルコから発信するものが、「言えてるね」とか、「そうだそうだ」ってうなずけるとか、そういうものであればいい。それでどこまで強いものをつくるかってことをやってるだけ。

髙崎
逆に言うと、なにをやってもいいパルコっていうのは、そういう場をつくるのが大変ですよね。デパートや百貨店は、なにを言ってもいいっていう広告の土地が生まれているから、広告の文化が花咲くと思うんですけど、それがやっぱりすごいなって。ただ、ずっとやり続けないとその土地は痩せていきますよね。

仲畑
そうね。

あるクオリティのものを発信し続けないと、
受け手が裏切られたと思うよね。

だからこういう鉱脈の表現でむずかしいのは、生理的で内面的に入っていくので、一度がっかり感を与えると、もう信用してくれなくなる。そこはちょっと危険な部分ではあるね。

 

髙崎
TCCとかで賞を獲って、そこそこ名前を覚えてもらえて、審査員になって。それで審査員になっていちばんうれしかったのは、みんなが憧れている仲畑さんみたいな人たちと一緒に審査でまわれることだったんです。いちばんはじめのとき、実は仲畑さんのすぐ後ろをついてまわって、なにに投票するかとかずいぶん見てました。そのときに「人生ってまた書いてるよ、ケッ」ってものすごい毒吐いてて。人生って単語を見つける度にケッケッケッって言ってて。それで帰ってすぐに、人生って単語は絶対にコピーで使ってはいけないという人生禁止令を自分に出したんです(笑)。安易に使うと、言えてる気になっちゃう。そこを書かなきゃいけないのに、人生って書いたら書けた気になっちゃうんですよね。

仲畑
言葉って時代の産物なので、大きい言葉がだめな時代がずいぶん続いた。だいたい80年代まんなかくらいまで大きい言葉はまったくだめだった。そんなときに愛っていう言葉を原稿用紙に書いてるやつがいてサイテーだと思ったね。それからしばらくして、90年代入ったくらいに、佐倉の「愛だろ、愛っ。」が出た。あ、いけるんだって思った。ただ愛の用法は違うけどね。「愛だろ、愛っ。」って投げ出すように言っていて、湿度の高い愛とは違うんだけど、それでも愛という言葉がいけるんだとわかった。それがあったから、JR九州の「愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。」ができた。勇気という言葉も同じなんだけど、そろそろOKだとにらんだ。ちゃっかりしてるんだよそういうとこ(笑)。これはね、工夫。いろんな意味でどんどん衰えますよ。というか、どうでもいいことが多くなるんだよ。

そういうときは、
世の中でウケてるやつ見たらいいじゃない。

世の中がOKって言ってるやつがお手本。売れてる歌詞、演劇、映画、小説、そこにOKサインがいっぱいあるわけで。そのまま真似するんじゃなくて、それを大きく呼吸して、さらに「かぶせてやる」というぐらいの勢いで表現する。すると、いけますね。だから、自信がなければリサーチすればいい。

髙崎
まわりにいっぱい判例があるから。

仲畑
すべてが判例だね。姿も形も心も見えない人たちの心を奪おうとする人間はさ、パッと見て今イケてるステージがこれだってわかるくらいじゃなきゃいけない。すると使える言葉も全部規定できるし、もちろん使えない言葉はみんな捨てればいい。それだけやっとけば、ど真ん中を狙える。

髙崎
仲畑さんってひとつの仕事でどのくらいのコピーを書きますか?

仲畑
最近はだめですよ。40、50代のころは、いいの書くでしょ?それを横に置いてね、よーし、これを潰してやろうと思って書くわけ。それよりちょっといいなと思ったらさっき書いたものの上に置いて、よーし、今度はこれ潰してやろうって。それがどこまでできるかだったんだよ。結構しぶとくできたね。今はほんと、早いよ。もうこれでいい、って感じにすぐなって。それと経験が長いから、ズルさが身についてるから、つっかえ棒を入れる。ブリッジコピーをあちこちで入れる。ただ、TVCMつくるとき、絶対に先に企画考えたらいいコピー書けないよ。その企画を成立させるためのコピー書いちゃうから。それがブリッジコピーなんだけど。ブリッジコピーで爆発するコピーは、まずできないね。こっちの都合のコピーだから。受け手の言葉じゃないんだよね。そんなもん刺さるわけない。いいコピー書こうと思ったら、

プランニングする前に
傍若無人にコピー書いちゃう。

とりあえず書いちゃう。それを使ってプランニングに入る。でも先に話をつくっちゃうと、その話を成立するための言葉になっちゃう。

髙崎
ああ、すごくわかります。反省も含めて。

仲畑
コピーで重要なのは語尾ね。語尾はなんとか「ですよ」「なのよ」「なのだ」「でっせ」「おま」「かしら」「じゃない?」と、いくらでもある。語尾はトーン&マナーの最たるもので、言葉のスピードや質量を決め、そしてニュアンスを運ぶ。コピー書いたとき、この語尾は絶対に断定だと、「なのだ」だと感知できて、そのコピーが効果を得たら、ものすごくイケてるときですよ。僕は、今もうわからなくなってしまった。だからいくつか書いて、ちょっと2、3日見るしかないね。消去法でいくしかない。今日ここにあったコピーで語尾を変えたらよくなるやつもあった。もちろんうんこのままのもあるけど。自分で変えてみればいいよ。かなり届き方が変わる。

髙崎
それは選ぶほうが大変ですね。

仲畑
コピーは「書く」じゃなくて「選ぶ」。新人のコピーライターを見ていても、清書したのよりいいのがあったりする。書いたの全部持ってこさせて落書きみたいなの見ていくと、すごくいいのがある。「これ最高」って見せると、「あ、いーですね」って。「お前が書いたんだよ、おい」と言いたくなる。選べてないのよ。おそらく500個も書けばいいの絶対あるんだよね。だけどそれが選べない。

髙崎
自分のものを客観視するって、やっぱりむずかしいっていうか、訓練が必要ですよね。仲畑さんに「これいいじゃん」って言われたらものすごいいいなって思うし、なんでいいって言ってるのかを考えちゃうので、あ、そういうことか、ってわかると思うんですけど、ここにもうひとりの自分をつくって、書いたものを見せるっていうのはむずかしいですよね。

仲畑
そうだね。だからうんこみたいなCDの下ついてるコピーライターは。ほんとかわいそうだと思う。

髙崎
仲畑さんにはうんこみたいな人が上にいたことはないんですか?

仲畑
別にいなかったね。

というか無視してたね。
こっちは確信を持ってるから。

サン・アドでは、サントリーのプレゼンする前に社内プレゼンがあるわけ。で、エライ人が決める。だけど、うちのチームは無視してた。社内で没になっても出してた。それが通るから。ほんとはもっとうまいやり方があるのだろうけど、手間かけるのが嫌だったから。

髙崎
結果が出てるからですよね。結果がなかったら、なにやってもだめだし。

仲畑
見事なプレゼンでもね。モノが動かないとどうにもならない。

髙崎
プレゼンするときって、何案か出すんですか?

仲畑
その相手との距離感だね。お互いに信頼できていれば1個ってこともあるけど、やっぱり向こうも参加したいっていう気持ちと、社内説得があるから。「100個でも200個でもつくりますけど、それじゃ時間がもったいないし、プロが提案するんだから絞るのも仕事だと思うんで」っていうことがわかってくれたら、1個にしたり2個にしたりするけど。だけどほら、うんこみたいの選ばれると困るでしょ。売れないから。変なの選んで困るのは向こうなんだけど。

髙崎
何案かプレゼンした瞬間に、向こうに選ぶ権利が発生しますからね。

仲畑
怖いねえ。ただ企業にも文化がある。CDとして重要なのは、スタッフに無駄打ちさせないってことね。ソニーやってるときにスタッフに言ってたのは、ソニーは「ディズニー×DDB」っていうトーン&マナー。だから、いくらいい企画でも、「四畳半」とか「神田川」モノは絶対だめ。そういう方向は考える必要なし。「ディズニー×DDB」がストライクゾーン。まあ、ちょっと外れたとこにも、また魅力があるので、それはもちろんOKだけど。

髙崎
DDBっていうのは、フォルクスワーゲンの”Think Small.”みたいなことですか?エンターテイメントとインテリジェンスみたいなことを、そう言うとつまらないから「ディズニー×DDB」と。そっちのほうがわかりやすいですね。

仲畑
ただストライクゾーンは広げたほうがクライアントにとってプラスになるから、外角ちょっと外れたくらいがいいんだけど、あまりにも湿度の高いコピーは、いくらハートフルなものでもソニーに提案しない、ソニーが迷惑するから。もしそれがうまくいっても、昔からやってきたソニーのブランディングが壊れるわけでしょ。うまくいっても得策じゃないから、そういうのは一切出さない。

髙崎
今はじめて知ったんですが、それが後のソニーのトーンを完全に決めてますね。最近復調してきてるソニーも「ディズニー×DDB」でつくられてる感じがします。モノが真ん中にあってチャーミングに見えるというか。

仲畑
そうね。そういうことの規定もコピーライターの仕事のひとつなわけよ。それとクライアント啓蒙。これも仕事のうちで大切な部分です。できるだけいい広告を一緒につくりたいなら、

飲んでるときに教育ってわからないように
一生懸命教育してるよね。

それとね、広告表現って、かっこ悪い行為だと思ってほしい。どういうことかというと、バレてるんだよね。自分でメディアを買って、自分で自分を褒めてる行為。社会でも、自分で自分を褒めるやつ嫌われるでしょ?それをやってるんだということを強く認識してほしい。だからサービスもいるし、いろんな心遣いがいる。
よくあるじゃない、タレントが出て「〇〇を選ぶ」ってコピーが入ってる広告。今日もそういううんこみたいなコピーを見てのけぞっちゃったんだけど。そしたらうしろにいた若いOLのグループが「選んでいるのはお金もらっているからだよね」みたいなことを言っている。もうバレてるわけ。クライアントがOKしてるってことは、これで心を奪えると思ってるわけじゃない。この言葉を消費者は好むというジャッジでしょ?失礼だよね、消費者に。

広告は、自画自賛っていう
いちばんかっこ悪い表現。

そこから出発してるのに、それをOKしてる。

髙崎
自画自賛から離れるために、クリエイティブのスキルがある。

仲畑
あんなのコピーライターも金取れないと思うけどね。ただ、あれは、クライアントに書かされてるんだね。審査してても、このスタッフで、こんな変な広告つくるわけないってわかるでしょ。これはきっと、クライアントにやらされてるんだと思うね。

髙崎
グラフィックの単体の仕事がありますよね。そういうときは、どういうものをつくるというイメージより先にコピーを書くのでしょうか。

仲畑
僕はCDからなにからなにまで一人でやっちゃうから、どうしてもコピー先行になりやすいね。でも、僕がコピー出すでしょ。それでデザインが返ってきたら、もう一回かぶせるときあるね。デザインがそのことしゃべってくれるなら、おれはこっちを語るよって、変えるね。コピーとデザインのキャッチボール。それができるとかなり楽しい。でも、それをやれるデザイナーって、ほとんどいない。身内ですが、副田と葛西はすごいね。

髙崎
「愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。」のときは、コピーが先ですか?

仲畑
これはコピーが先ですね。

髙崎
それを見せて、みんながどういうビジュアルにするか考えるんですか?

仲畑
このビジュアルは、列車をとりあえず写すなって要求した。もちろん、列車は写さざるをえないんだけど。列車の写真ってのは怖い。鉄道マニアの写真がたっくさんあるから。ちゃんと写ってる写真では圧勝できない。なるだけ写さないでほしいと、無理を言いました。

髙崎
鉄ちゃんの写真にはするなと。

仲畑
そうそう。だから、夕景にただ光があるみたいなのになったんだけど。心の風景をかきたててるものであればいいと。ただこのコピーはアウトサイド(消費者)に対するだけでなく、インサイド(社内)のほうにも向けている。JR九州の社長に言った。「安全がいちばん重要なビジネスにおいてのモラルアップ。その役割を広告にも負わせましょう」「上司が言ったって効きにくいけど、広告は効きますよ」「広告をもっと利用しましょう」って。モノじゃなくて心を積んでると思えば、心遣いも生まれるでしょう。実は、これは、インサイドのモラルアップを相当意識して書いた。

クライアントには要求されてないんだけど、
今それやったほうがいいと思って。

特に国鉄から民営化して、しばらくして、ちょっと慣れたころね。いちばん危ない。だから勝手にインサイドの心も奪う広告をやったんだ。

髙崎
こういうのがあると、この会社で働いててよかったって思いますよね。

仲畑
中の人へのフォローやモラルアップが少しでもできればいいよね。

髙崎
「タコなのよ、タコ、タコが言うのよ。」とかはどうですか?

仲畑
これは、やったらいけないんだね。だけど、長いこと広告やってると、こういうことやりたくなるんだよ。これはまったく論理的ではない。だけど、いけるってことだけはわかっていた。6回タコって言えば売れる自信があった。だけど、まったく、プレゼンではそんなの通らない。だから「タコが言うのよ、好きな子がいるんだって」ってお話にしたんだけど、今でもあれ聞くとものすごい嫌な感じがする。タコの連発だけでいいのに、なんでこんなダサイこと言うのかなと。サントリーの宣伝部長が「タコかい?」って言う。それに答えて、「タコです」って言ってるだけのプレゼンだからね。やばいよね(笑)。論理があれば向こうと共犯になれるじゃない。でも、まったくわからないのに乗って、やっぱり売れなかったら、コノヤローでしょ。だからこの手はあんまりプロはやっちゃいけない。だけど、やりたくなるね。今の時代はもうタコじゃないけどね。時代の言葉ってあるよね。

髙崎
そのときは「タコ」がいちばんきてたんですか?

仲畑
きてました(笑)。だけど、サントリーの宣伝部はすごいね。これも宣伝部長が「仲畑が、またこんなバカなこと言ってんですけど」って。それで社長が「やってみなはれ」と、やらせてもらった。佐治敬三社長。最高だね。それでうまくいった。そしたら「タコハイボールつくるからね」って。広告で金使って流布した言葉を、ちゃんと商品名にしてまた売るって、商品づくりもクリエイティブだね、サントリー。

髙崎
そうやって「タコ」を通して、当ててくださった過去があるから、僕たちが今サントリーとかでとてもやりやすい環境をもらえているんですね。

仲畑
サントリーはやっぱり広告を信用してる。

いい広告つくれば、それはちゃんと
稼がせてくれることを知ってる。

だからいいよね。業績が下がったら広告やらない企業もあるけど、それじゃ潰れるよね。こういうときにやらなきゃいけないのに。税金取られるから調子のいいときに冗談みたいな広告やってる。わかってない。そんなMBA野郎がいるんだよね。過去のデータだけのマーケティング。

髙崎
ほんとサントリーの人たち、きれいにまとまってると「これまとまっちゃってますね」とか「もうちょっと読めないところあったほうがよくないですか?」とか言い出すんですよね(笑)。

仲畑
贅沢だねえ(笑)。ブロークンにするのって、いちばん粋で、いちばんむずかしいことだからね。

髙崎
鍛えられますね。

仲畑
じゃあ、そろそろにしましょうか?

髙崎
では、続きは飲み屋で。

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■HCC賞2018は3/23(金)エントリー開始予定
詳細は、北陸コピーライターズクラブのサイトをご参照ください。
http://www.hokuriku.cc/

■「HCC年鑑2017」に、この対談の模様や受賞作品掲載中!
http://www.hokuriku.cc/book

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