父さんへ。  ごめん、父さん。
 俺はずっと、あなたのこと、父親という
感じがしていなかった。だって父さんは、
父さんである前に、漫画家だったから。描く
作品が売れるほど、父さんといる時間は減
って。ときたま電話で話すときも、いつも
緊張していた。

 だけど大学進学を相談した時、「やりたい
なら好きにしたらいい」って、俺がお金の
心配をする余地を与えなかった。今、俺も働く
ようになって、父さんのやり方で、家族を支
えてくれていたこと、わかったよ。遅くなって、
ごめん。

 今でも父さんは、まず、漫画家だ。それ
どころか学生に好かれる先生で、アジアと日
本を漫画でつなぐ旅人で、東北の料理を伝える
料理人だったりする。
 でも、俺にとっては、散らかった仕事部屋と、
そこだけ聖域みたいにきれいな机の上と、と
きたま一緒にうまいもんを囲む食卓が、父さん
の原点だって思ってる。そのうまい記憶が、
漫画に出るって信じてる。

 ごめん、ありがと、父さん。
 これからも、父さんで、漫画家で、挑戦者で
いてください。いつか、俺自身の挑戦を、父さ
んと語れるその日まで。

老働を愉しむ国へ。

NO.88890

広告主 パナソニック
業種 精密機器・産業資材・住宅・不動産
媒体 新聞
コピーライター 畠山侑子
掲載年度 2016年
掲載ページ 242