金鳥ロマン小説 ピンクのよろめき
第八話<小俣拓也>  なんでも舌先口先のべしゃりで解決してきたおれや。筆談は
つらい。調子が狂う。けど、なんとか晩飯の誘いのメールをピ
ン子おばはんに出す。
 と、おばはんからの返事は
「お金ももったいないし、うちで・・・は、どうですか?その日、
娘も塾で遅いので」。それで最後に「こっそりお渡ししたいも
のもあるし」
 お、見舞金か。むひひ。ほなまぁここは、相手のペースに合
わせとくか。新しいピンクのポロシャツを着て、おばはんが書
いてよこした住所にむかう。おもちゃみたいな建売住宅。呼び
鈴に「WELCOME」て書いた木の札がかけてある。
 ピンポンを押すと、中からどたどたどたとすごい音がして、
ドアが開いた。
「小俣さん・・・来てくれたのね」
 おばはんは、いつにも増してピンクやった。顔面まで、ほんの
り。中に入る。甘い香りがするなとおもたら、ピンクの蚊取り線
香がダイニングの隅に置いてあった。

「こんなものしかないんだけど」
 とおばはんが料理をならべる。切干大根。ちくわの煮つけ。さ
つまいもの天ぷら。みな手づくり。
 おさつやない、お札に用があるんや・・・と口からでかけてあわて
る。あかん、どうも自分のペースに持っていけんな。
 おばはんはどんどん料理をだす。巻きずし。肉じゃが。メンチカツ。
 しかたなく食べる。あげたてのメンチカツのさくっとした衣か
ら肉汁がじゅわわわ。「・・・うまい」と口からでてしまう。
 あれ。おれ、今、心からうまいと思ってたんか?とまらず、どん
どん食う。なんやら、懐かしくて甘酸っぱい感じ。
「おかあちゃんの味や」
 と思わず口からでた。
 ふと見るとおばはんが、こっちを見つめている。あれ、おれ、
このおばはんのこと、ちょっと「いとしい」とおもてないか?
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 ソースを渡すピン子の指先が、小俣拓也のそれにふれた。 
(次週につづく)

NO.87520

広告主 大日本除虫菊
受賞 ファイナリスト
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之 直川隆久
掲載年度 2015年
掲載ページ 135