金鳥ロマン小説 ピンクのよろめき
第一話<臼井ピン子>  ここのスーパーは動線が悪いそんなに広くない
入口すぐにレジが設置してあるので、店に入って
くる人と会計に並ぶ人が交錯し、ごったがえす
のである。
 わたしは列にイライラしながら、レジ横の「ひと
くちバウム小倉サンド」と「チョコチョコパイ」を
カゴに入れた。いつもここでいらないものを買って
しまう。ピンクのキンチョールがでた、というので
買いにきただけなのに、カゴの中は食べるものであ
ふれ返っていた。
 わたしはピン子という名前が嫌いだった。ちょう
ど生まれた日に徹夜麻雀をしていたという父が
「ピンズでつきまくってなぁ。ようけ勝たしてもうた。
スキップで帰ってきたらお前が生まれとった。それで
やねん」
 というふざけた名前の由来も気に入らなかったし、
なにより名字が大桃だったもんで「oh!桃、ピンク」
と随分とからかわれた。いまは結婚して、臼井である。

「ピン子・・・さん?」
 店に入ってきた男が、すれ違いざまに声をかけてきた。
「小俣です。小俣拓也・・・えーと小俣ポン太の父親です」
「あー、ポン太くんの!」
 確か・・・娘が小学校一年のときの同級生だ。
麻雀用語でつけたという息子さんのその名前に親近感を
持ち、学校行事で何度か会話を弾ませたことがあった。
「よく・・・分かりましたね」
 娘はもう中二である。小学校六年間で同じクラスに
なったのはたったの一度だけだ。
「恰好を見れば・・・遠くからでも分かりましたよ。ピン子
さんだって」
 拓也は、ショキングピンクのスパッツに上は黄色と緑の
水玉シャツ、そしてピンクと赤のシマシマ麦わら帽子で
キメたわたしのファッションを、さりげなく褒めた。
「・・・・・・からかわないでください」
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 うつむいたピン子の頬がピンクになった。
(次週につづく)

NO.87513

広告主 大日本除虫菊
受賞 ファイナリスト
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之 直川隆久
掲載年度 2015年
掲載ページ 134