朝日新聞デジタル/プロメテウスの罠
防護服の男 第二話 265秒 NA:
ギリシャ神話によると、
人類に火を与えたのはプロメテウスだった。
火を得たことで人類は文明を発展させた。
しかし、落とし穴があった。

NA:
朝日新聞、プロメテウスの罠。
シリーズ、防護服の男、第二話。
      
S:
プロメテウスの罠シリーズ 防護服の男 第二話

NA:
3月13日に菅野家の25人が出て行った後も、
津島地区の避難者は大半が残っていた。
避難指示は12日午前5時44分に
10キロ圏内に拡大。
1号機が水素爆発した後、
午後6時25分に20キロ圏内に広がった。
官房長官の枝野幸男は
12日夜の記者会見でこう語った。

NA(枝野):
「放射性物質が大量に漏れ出すものではない。
20キロ圏内の地域の皆さんに
影響を与えることにならない」
     
NA:
要するに、たいした事はないが
念のため避難してくれ。という趣旨だ。
人々は30キロの津島地区は安全だと信じていた。
東電の社員が12日と13日に
浪江町の津島支所を状況報告に訪れたが、
彼らは防護服でなかった。
「ここは危ない」ともいっていない。
菅野みずえが会った男たちの様子とは
大きく違っていた。
     
NA:
役場職員も区長も、みずえの会った
防護服の男を見ていない。
しかし、みずえは見聞きしたことを
しっかりメモに書きとめていた。
15日早朝、前日の3号機に続いて、
2号機で衝撃音がし、4号機が爆発した。
政府は初めて20~30キロ圏内の
「屋内退避」を要請する。
津島地区の住民が避難したのはそのころだった。
町長の馬場有らが
14日の3号機の爆発をテレビで知り、
隣の二本松市に15日から
自主避難することを決めたのだ。
福島第一原発の正門では、
15日午前9時に
毎時1万1930マイクロシーベルトの
高い放射線量が観測された。

NA+S:
それでも枝野の発言は楽観的だった。

NA(枝野):
放射性物質の濃度は20キロを
越える地点で相当程度薄まる。
人体への影響が小さいか、
あるいはない程度になっている。
1号機、2号機、3号機とも今のところ
順調に注水が進み、冷却の効果が出ている。 
     
NA:
原子炉が12 日のうちにメルトダウンを
起こしていたことが国民に知らされるのは、
後になってからだ。
12 日の朝、浪江町で交通整理にあたる
警官は、防護服を着用していた。

NA(住民):
警官がどうしてあんな格好をしているの

NA(吉田):
不安を与えるので、防護服は着ないでほしい。
     
NA:
浪江町議会議長、吉田数博は
津島地区の警察駐在所を訪れてそう訴えた。
吉田はいう。

NA(吉田):
知らないのはわれわれだけだったんだ
      
S:
知らないのはわれわれだけだったんだ

NA:
プロメテウスによって文明を得た人類が、
今、原子の火に悩んでいる。
福島第一原発の破綻を背景に、
国、民、電力を考える。
朝日新聞、プロメテウスの罠。つづく。
      
S:
朝日新聞DIGITAL

NO.87234

広告主 朝日新聞社
業種 マスコミ・出版
媒体 WEB
コピーライター 高崎卓馬 外﨑郁美
掲載年度 2014年
掲載ページ 418