金鳥小説 夢不来(むしこなーず)
〜虫コナーズのCMオーディションに挑む
主婦・近藤幸恵の物語<全十話>〜
第十話「虫が納まる」 幸恵のテレビに出たい熱は収束を迎えていた。
実はあれからCMに出たのだ。朝、生ゴミを
出す主婦の役(エキストラ)として。
はじめての撮影現場は楽しかった。だけど思った
ように華やかでもなく、ロケ弁当もまぁ普通、
ギャラも妄想していたのとケタケタ笑う
ほど違った。向かいのマンションからゴミ出しを
するもう一人のエキストラ役が和子だった。
オーディション会場で鉢合わせたときは、
食用ガエルが銀玉鉄砲くらったほど驚いた。
実際にぐえっと声を出したのは幸恵の方で、
和子は「さっちん!」といきなり抱きついた
かと思うと「会いたかった」と涙を流したのである。
帰り道のファミレスに二時間半いた。近況報告、
夫の愚痴、昔の話・・・会わなかった時間はあっと
いう間に縮まり、虫コナーズの撮影裏話も話して
くれた。幸恵は言おうかどうしようか一瞬迷ったが
自分もオーディションを受けて見事落選した
ことを笑いながら告白したのだった。
「あれはさっちんには無理よ」と和子。
「だってあれ、ちょっと鈍臭い人が選ばれるのよね。
一生懸命やってもちょっと出来てないとかね、
それが面白いとか言ってね、失礼な!とか思うけど
自分で見ても笑っちゃうのよね。夫とか息子とか
涙流して笑うんだからもう人生後半ヤケクソよ」
そして何杯目かのコーヒーをすすりながら和子は
少しゆっくりと自分の話をはじめた。
「さっちんは覚えてないと思うけど、小学校三年の
時ね、ほらクラスの発表会でわたし木の役だった
のね。さっちんはお姫さま役でキラキラ輝いて
完璧で。なんだろ、それがずっと自分の中
に憧れとしてあったのかな。子育てが終盤に近づい
たある日、わたしも、わたしも何か認められたい
っていうか、結果としては笑われてるだけ
なんだけど・・・何か生きてる証を残したいって、
おおげさだけど思ったのよね。だから、だから
さっちんにはホントに感謝してる」
ざわざわ。カズちゃんの言葉が心のひだをくすぐって
いる。ありがとう。カズちゃん。わたしたち女の人生。
これからだよね。木が主役の物語だってあるのだ。


※ストーリーはフィクションです。
登場人物、団体名等は架空のものです。

KINCHO
虫コナーズ テラス・ベランダ用スプレー

NO.85269

広告主 大日本除虫菊
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之
掲載年度 2013年
掲載ページ 167