金鳥小説 夢不来(むしこなーず)
〜虫コナーズのCMオーディションに挑む
主婦・近藤幸恵の物語<全十話>〜
第九話「泣き虫」 最終選考で幸恵は完璧な踊りを披露した。どうして
みんなもっと真面目に練習してこないのか、
わざとやってるとした思えないくらい不器用
な動き。まるで手足がついただけの肉まん
ではないか。二組が終わったところですでに
幸恵は合格を確信していた。最終組の三組目
が始まる頃には家族への物言いを考えて
いた。虫コナーズのCMとして世に出る
わけだから、逃げも隠れもできない。
もうすでに腹をくくっている幸恵は、今度は
久しぶりにトンカツを揚げよう、そして
シャンパンを買って帰ろう、家族に祝福されて
いる自分を想像し、にやけたヒキガエルみたいな
顔をして座っていた。
撮影日、天気予備の日(そんなものがあるん
だなぁ)のスケジュールをそれぞれ○△×
で聞かれ、では結果は電話で連絡しますので
と、いつもの担当が絵コンテを丸めて
メガホンのようにして大きな声で言った。
赤ワインとチーズも買って帰ろう。
「なんでなんですか!納得いきませんけど」
幸恵は怒っていたけど泣いていた。落選の理由を
聞かせろと迫る幸恵に、電話口のキャス
ティング会社担当はあからさまに困惑している。
「それだけ熱意のある方は珍しいですから、
近藤さんにはきっとまたチャンスが巡って
くると思います」という慰めにもならない
言葉。監督に理由を聞いて伝えますから
ということでようやく電話を切った。
幸恵はもはや抜け殻であった。脱皮したわけでも
ないのに心だけがぺしゃんこになってしま
った。虫コナーズ、さえも、落選。
どれくらいたったか。携帯の留守電に担当から
メッセージが入っていた。「あの~、監督に
お聞きしましてですね、近藤さんはダンスが
うますぎたというのとですね、」うますぎて
落選?意味がわからない。「体格とか年齢
とかキャラは申し分ないんですが」が?
「ちょっとまぁなんというかそのその・・・
ちょっと・・・品がありすぎるかなぁってこと
ですかね」キャスティング担当、苦し紛れの
最後のひと言が、幸恵の涙を乾かした。
(次回は7月14日掲載予定です)

※ストーリーはフィクションです。
登場人物、団体名等は架空のものです。

KINCHO
お米に虫コナーズ

NO.85268

広告主 大日本除虫菊
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之
掲載年度 2013年
掲載ページ 167