金鳥小説 夢不来(むしこなーず)
〜虫コナーズのCMオーディションに挑む
主婦・近藤幸恵の物語<全十話>〜
第七話「塞ぎの虫」 夕方、駅からの帰り道に早くも連絡があった。
結果は、今回は残念ながら・・・という
ものだった。当たり前だわ。と幸恵は思った。
木の役よりひどいじゃない。便器
かぶるなんて人生で初めてだわ。合格
しても断ろうと思っていたところだった。
そもそも家族が納得しないわよ。
それから数ヶ月のうちに5回ほどのオーディ
ションがあった。ひとつはぶよぶよと
キモチの悪い着ぐるみをかぶった何かの
害虫の役。ひとつは便秘で苦しむ大腸の
役。わたしは感情移入タイプの女優
だからとまどってしまう。生ゴミの擬人化
の役。ゴキブリの大ボスの役。この間は
「いつもどおり普通にしててください」
と言われて、蚊に刺されまくって悶絶
する(太った)女の役。それさえも落ちた。
適役ではないのは分かっている。
やりたくもない。だけど認めてもらえないのは
くやしいものである。
今度落っこちたら別のキャスティング
事務所に登録しようと決意して臨んだオーディ
ション。事務所との相性が悪いに違い
ないのだ。「じゃあ三人ずつチームになって
歌と踊りとね、見て行きますんで」
壁際のホワイトボードに歌詞が書かれてある。
これって・・・まさに虫コナーズの新しい
CMのオーディションではないかー。
控室で簡易のエプロン姿に着替えていると
若いスタッフが「これ参考までに前のCM
でーす」と言ってDVDをかけた。
♬~ムッシコナーァズゥ~。何度も何度も
暗い目で見たあのCMがリフレインされる。
カズちゃんが歌っている。木の役が先輩面
してこれ見よがしに踊っている。そこから
家につくまでの記憶が幸恵にはあまりない。
オーディションはどうだったのか、いまと
なってはもうどうでもよかった。
と、着信。聞き慣れた落選通達の声の主。
「近藤さん、最終選考に残られましたけど、
来週の火曜日、もう一回来れますかね」
(次回は6月30日掲載予定です)

※ストーリーはフィクションです。
登場人物、団体名等は架空のものです。

KINCHO
虫コナーズ 窓ガラス・アミ戸用スプレー

NO.85266

広告主 大日本除虫菊
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之
掲載年度 2013年
掲載ページ 166