金鳥小説 夢不来(むしこなーず)
〜虫コナーズのCMオーディションに挑む
主婦・近藤幸恵の物語<全十話>〜
第四話「虫のいい話」 渋る夫に、どうしても調べものがあるからと
タブレット端末とやらを借りた。得意では
ないがインターネットで調べるほかないと
思ったからだ。
近藤幸恵五十一歳。三日に渡る奮闘の末、
ほぼ執念のみでコマーシャルタレント希望者が
まず所属するキャスティングプロダクションを
探し当てたのだ。そこに登録すれば、いろいろな
コマーシャルやドラマ(!)のオーディションの
案内があるらしいのだ。例の虫コナーズの
CMもこのキャスティング会社が手掛けたらしいが
眼中にはない。化粧品のコマーシャルなんか
やってみたい。ドラマで有名な俳優と共演とか
なったらどうしましょう。夏子やマリの驚く顔
が目に浮かぶ。『紙風船』で好きなだけ御馳走
してあげるわ。(食べ放題だけど)。死体の役は
イヤだわね。セリフがないから。温泉ものとか
肌を露出するのもイヤ。安売りはしたくない。
幸恵は止まらない妄想に白目になりながら、
迷わず登録ボタンを押したのだ。
「来週ですか。ぜんぶ空いてます」
登録してたった数日で、幸恵の携帯がなった。
キャスティングプロダクション「夢想人
(むそうじん)」からのオファーだった。
オファーといってもコマーシャルのオーディ
ションに来ませんかの案内なのだけれど、
幸恵はもうタレント気分である。
「で・・・なんのコマーシャルですか?」
「それはちょっと守秘義務とかいろいろあり
まして、お伝えできないんですが、それでも
大丈夫でしょうか」
大丈夫でしょうか、の、しょうかに重なる
ぐらいのタイミングで幸恵は「大丈夫だす」
と言った。噛んじゃった。女優としたことが。
でも相手は気づいていないみたい。
「それとですね、別に正式な書面とかはいいん
ですが、一応ご家族の承諾というかご理解は
各自でお願いしてるんですけど」
「家族の・・・ショーダク?」
声が裏返ってしまった。女優としたことが。
(次回は6月9日掲載予定です)

※ストーリーはフィクションです。
登場人物、団体名等は架空のものです。

KINCHO
虫コナーズ お部屋の窓辺用

NO.85263

広告主 大日本除虫菊
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之
掲載年度 2013年
掲載ページ 165