金鳥小説 夢不来(むしこなーず)
〜虫コナーズのCMオーディションに挑む
主婦・近藤幸恵の物語<全十話>〜
第一話「虫の知らせ」 ♬~虫コナーズぅ~~とコマーシャルに
あわせて調子良く鼻歌を歌っていた幸恵は、
ハッと息を飲んだ。「か、カズちゃん??」
畳かけの洗濯物を放り出して、テレビに
駆け寄ったが画面はつぎのコマーシャルを
映し出していた。
池田和子。カズちゃん。カズちゃんとは
小中と幼なじみでよく遊んだ。中学校に入
ってからは部活が別々で徐々に離れたけれ
ど、小学校6年間はほぼ毎日登下校を共に
していたんだから、その面影に見間違えは
ないと思う。カズちゃん。どちらかという
と引っ込み思案で、いつも幸恵の後ろをつ
いて来たカズちゃん。クラスの発表会では
確か木の役だったカズちゃん。木のセリフ
は「ざわざわ」しかなかった。幸恵は主役
のお姫さまの役で、やっぱりさっちはす
ごいよね、といってスキっ歯を見せてわっ
ていたカズちゃん。が、いましがたテレビ
の中で歌っていたのだ。踊っていたのだ。
「池田和子?うーん覚えてないなぁ」帰宅
したばかりの夫・良雄の気のない返事。無理
もない。二十数年前に結婚式に参列しただけ
の妻の友人を覚えているほうがおかしい。
「そりゃ覚えてないわよね。これがカズちゃ
ん。いまもっと太っちゃってるけど」昼間
に引っ張りだした結婚式の写真を夫は見る
でもなく「で、どうしたのその人が」と興
味もないのに、ま一応、礼儀みたいな会話。
「いや別にたいしたことじゃないんだけど、
今日テレビ見てたらコマーシャルに出てた
みたいだから」
「コマーシャル!?」良雄が食いついた。
「いやコマーシャルって言ってもホラ、お
ばさんが3人ぐらいで歌って踊ってるやつ
よ。虫コナーズ~って言って」
「オレ、あのCM好きなんだよ!へ~すご
いなぁ。どれどれ?どの人?へぇ~今度
ちゃんと見てみてるよ」
ざわざわ。幸恵の中で何かが揺れた。
(次回は5月19日掲載予定です)

※ストーリーはフィクションです。
登場人物、団体名等は架空のものです。

KINCHO
虫コナーズ プレートタイプ

NO.85260

広告主 大日本除虫菊
業種 化粧品・薬品・サイエンス・日用雑貨
媒体 新聞
コピーライター 古川雅之
掲載年度 2013年
掲載ページ 165