偉人の食卓
太宰 治 食べすぎて、すみません。

「子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、
実に、自分の家の食事の時間でした。」
そんな『人間失格』の一節からは想像できないほど、
実際の太宰治は、よく食べよく飲む大食漢だった。
高校時代は、いつも三杯分の味噌汁を
魔法瓶に入れ登校し、作家になってからも、
その大食ぶりで周囲を驚かせたという。
結婚後は、特に家では素材も調理も
出身地である津軽風にこだわった。
郷里から毛蟹が送られてきたときなどは、
大の男がまるで子どものように
有頂天になって喜んだ。
ほかにも、湯豆腐、筋子納豆、

根曲がり竹などが好物で、美和子夫人は
自身の回想録で三鷹の街を毎日食糧集めに
奔走したことを記している。
また、太宰は自他共に認める
大の味の素好きでもあった。
『HUMAN LOST』の中の
「私は、筋子に味の素の雪きらきら降らせ、
納豆に、青のり、と、からし、添えて在れば、
他には何も不足なかった。」という
主人公の語りも太宰自身の本心なのだろう。
貪欲なまでの食事への執着は、
この作家の生きることに対する
力の限りの執着のようにも思えてくる。

食は人をつくる。

NO.84505

広告主 味の素
業種 食品・飲料
媒体 雑誌
コピーライター 小野仁士
掲載年度 2012年
掲載ページ 187