日本たばこ産業
粉雪 S:粉雪
「おでんでも食べないか」先生が言った。
先生は連載を3本持つ漫画家だ。
男はそこのアシスタントとして、8年になるが、
誘われるのは初めてのことだった。
二人は屋台のおでん屋に入った。
誘われた理由は男も気づいていた。
男の描いた漫画がまた落選したからだ。
そして、そのグランプリを受賞したのが、
先日卒業した後輩アシスタントだった。
「何本目だ」先生は聞いた。
賞に落選し続けたマンガの数のことだ。
三十本くらいだと男は答えた。
そうか、と言って先生は外を見た。
湯気の向こうに粉雪がちらついていた。
「雪も最初は溶けるだろう?」
道を顎で指し、先生は言った。
男はうなづいた。
「でも溶け続けていた雪が
ある時から積もりはじめる。
努力っていうのは、そういうもんなんだよ」
そして、照れながら先生はつけ加えた。
「遅咲きの方が大きな花が咲くものさ」
風で流れた粉雪が、男の肩に
うっすらと積もりはじめていた。
強く、香る。強く、生きる。

NO.84302

広告主 日本たばこ産業
業種 酒類・タバコ
媒体 WEB
コピーライター 岩田純平
掲載年度 2011年
掲載ページ 476